性暴力は「女性を辱める」のか、インドの刑法改正案に人権2団体が抗議

レイプが社会問題となっているインドで、性犯罪を厳罰化するため、刑法改正案に同国のムカジー大統領が署名したことに対し、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)とアムネスティ・インターナショナルの2団体は、刑法改正案の否決をインド議会に求める共同報告書(HRW、アムネスティ・インターナショナル)を発表した。

この報告書で両団体は、刑法改正案は時代遅れで差別的な考え方が残っていると指摘。その一例として、「性暴力」を女性の権利を侵害する犯罪とせずに、女性の慎み深さに対する「侮辱」や「辱め」と定義している点を挙げた。

刑法改正案はまた、配偶者の有無によって女性を差別し、さらに法の下の平等な保護を否定している。刑法改正案の第375条は「別居を命令された、あるいはその他の習慣のもとで別々に生活している」という極めて狭い事由を除き、妻は夫を「性暴力」で訴えられない、と規定している。

男尊女卑の根強いインドではレイプ事件が後を絶たない。刑法が改正される契機となったのは、ニューデリーで2012年12月に起こった残虐な集団レイプ事件だ。バスに乗った23歳の女性が、運転手を含む6人にレイプされたあげく、鉄の棒で暴行された。このとき受けた腸管の損傷が原因で、女性は後日、搬送先のシンガポールの病院で死亡した。この事件をきっかけに、インド国内で大規模な抗議デモが勃発した。

インド全土ではこの事件以降、警察や政府に対して性犯罪の摘発強化を求める激しいデモが広がった。これを受けてインド政府は、最高裁判所の元長官のヴェルマ氏を委員長に据え、性暴力を取り締まる法律の強化を検討する委員会を設置した。この委員会は、国際人権法を反映した改正内容となるようインド議会に勧告した。だが刑法改正案は、勧告を無視した内容となっている。

HRW南アジアのディレクター、ナメクシ・ガングリー氏は「性暴力に関するインドの植民地時代の刑法をようやく改正している。しかし、重要な人権保護規定や被害者への救済規定が欠けている」と問題点を指摘した。

共同報告書が、刑法改正案の重大な欠陥としてほかに挙げるのは下の5点。

①性暴力行為に対する刑罰に「死刑」を適用している
②警察と軍による性暴力行為を「免責」している
③性交の同意年齢を16歳から「18歳」に引き上げている(18歳未満の者による性行為は犯罪となる)
④人身売買の定義を「成人間の同意に基づく性労働」と同一視している
⑤同意に基づく「同性愛行為」を犯罪としている
(有松沙綾香)