移民への嫌悪高まる英国、「仕事が奪われている」

アクトンタウンのアラブ食料品店

移民に寛容とかつていわれた英国で、移民に対する嫌悪感が高まっている。この傾向が強まったのはここ10年ぐらいのこと。背景にあるのは、移民が増えている現実と、それによって仕事が奪われるといった危機感だ。テレビの報道・討論番組でも週に1度は「移民」という言葉を耳にするほど、英国では大きな関心事となっている。

英国国家統計局が2013年2月末に発表した統計によると、移入民から移出民を差し引いた「純移民」(移民の定義は「1年以上の生活者」)の数は、02年度(英国の統計年度は7~6月)は約15万人だった。ところが11年度にはその7割増の約25万人になった。

12年度は前年から約8万人減ったものの、17万人と高い水準を維持している。12年度の移入民約51万人のうち、約20万人は学業目的(留学生)だが、約17万人は労働者だ。

旅行会社勤務のロンドン在住の白人男性(50代)は「移民の数はある程度制限されるべき。移民はたいてい、大家族で移住してきて職につき、大人数であるがゆえに、家族全体はどんどん豊かになっていく。もともと居住している英国人の生活は苦しくなっていくばかりだ」と話す。

ジャーマン・マーシャル・ファンド(GMF)が09年に発表した統計では、英国人の半数以上が「移民が仕事を奪っている」と考えていることが明らかになった。また英国人の7割が「英国政府は移民問題への対処に失敗している」と回答。嫌悪感は政府へも向けられていることが浮き彫りになっている。

こうした世論を反映して、最大与党の保守党は、純移民数を数万人に制限するとの公約を掲げている。だが、連立政権を組む自由民主党は、現在の移民の流入状況に対して、英国はそれを受け入れるしかないが、このまま増加させるということもさせないと主張する。

移民は本当に英国人の仕事を奪い、それによって英国人は失業しているのだろうか。移民の典型的な仕事は、新聞配達やショップ店員などが多い。

前述の白人男性は「ロンドンに限れば、仕事が足りないという状況ではない。しかし最近では英国人でなくても可能な、または移民の方が得意な仕事は彼らが持っていき、雇用が減っているように感じる」と打ち明ける。

英国への移民はインド人が全体の12%(11年度)と最も多く、中国とパキスタンがそれぞれ8%となっている。だが今後は東欧からも増加するとみられる。移民は、アクトンタウンやブリクストンなど、ロンドンの西部や南部にコミュニティを形成。そこではブルガリア語やアラビア語で書かれた看板の食料品店も目に付く。

「ブリティッシュドリーム」を求めてやってくる移民とそれを警戒する従来の英国人。両者の衝突が顕在化する日は近いのかもしれない。