兵士になるか 家族の安全か、シリア難民の若者が抱える苦悩

シリアの集い「シリアの過去と今を考える」が5月19日、都内の明治学院大学白金校舎で開かれた。主催したのは、シリア難民を支援する団体サダーカ。ヨルダン・アンマン在住の田村雅文代表がシリア難民の現状を報告し、明治学院大学国際学部の平山恵准教授がコメントするという形で集いは進行した。

田村代表はこの中で、兵役を逃れてヨルダンで生活するシリアの若者が直面するエピソードを紹介した。パスポートの期限が切れる前に、彼らは駐ヨルダン・シリア大使館に行ってパスポートを更新する必要があるが、そうすると、徴兵される可能性があるという。

もし兵役を断れば、シリア国内にとどまっている家族に危害が及びかねない。自分が兵士になるか、家族の安全が侵されるか――究極の板挟みの中で、そう簡単に身動きをとれないのがヨルダンで暮らすシリアの若者の実情だという。

ヨルダンに避難したシリア難民にとって、子どもの教育をどうするかも大きな悩みの種だ。子どもを学校に通わせられないことに強い不安をもっている難民は少なくない。

ヨルダン政府は目下、シリア難民の子どもの通学を支援しているが、いつまで続くかは分からない。紛争が近い将来、終わって、母国へ帰れると期待し、ヨルダンの学校へ子どもを通わせていないシリア難民の親もいるという。

子どもの精神面も深刻な問題だ。ヨルダンで暮らす難民の子どもたちと小旅行に出かけた女性によると、みんなで故郷の歌を歌ったところ、子どもたちは突然、号泣し始めた。2年以上に及ぶ紛争は子どもの心に大きな傷を残した。心のケアは今後避けて通れない課題だ。

今回の集いでは、ヨルダン在住のシリア人女性が思いをつづった手紙も読み上げられた。

「私たち(ヨルダンで暮らすシリア難民)は2年後、大変な暮らしになっていても、きっと普通の生活をしている。今も危ないことはたくさんあるが、仕事に毎日行き、友だちと会っている。シリア人は人生がひとつしかないと理解しているし、死ぬときはどこでも、またどんなときでも死ぬと分かっている。だから、こうして暮らし続ける」

この手紙の内容は、シリア人がいかに、紛争が日常と化した日々の中で暮らしているかを如実に表している。

サダーカは、シリアの現実を世界に伝え、紛争を終結させるための行動を促すことをミッションに掲げ、青年海外協力隊のOBや明治学院大学の学生らが12年3月に立ち上げた団体。これまでに、「ストップ・キリング」(殺すのをやめて)と書いたポスターを作成・展示したほか、東日本大震災で宮城県石巻市に緊急支援として届けられ、残った衣類をシリア難民に届ける「絆ぐるぐるプロジェクト」を難民支援のNGO「JIM-NET」と共同で実施した。この取り組みは、朝日新聞の5月15日付記事でも紹介された。(中野愛理)