■インフラ整備に6500億円
安倍晋三首相は6月1日、横浜市のパシフィコ横浜で開幕した第5回アフリカ開発会議(TICAD V)の開会式で基調講演し、アフリカに対して日本は官民あわせて向こう5年で総額3兆2000億円(約320億ドル)を支援すると表明した。このうち政府開発援助(ODA)は約1兆4000億円を占める。
安倍首相は「TICAD Vの準備プロセスで、何の分野に最も力点を置くべきか、アフリカ各国に聞いてきた。答えはいつも、インフラ整備、産業人材、保健、農業と同じだった。そのためのカギは『人づくり』。これは、日本が力を発揮したい分野だ」と力を込めた。
約3兆2000億円の支援のうち、インフラ整備には約6500億円(約65億ドル)を振り向ける。内陸部と沿岸をつなぐ国際回廊、送電網などの整備を支援していく。
■10カ国に人づくり拠点
安倍首相はまた、アフリカの産業人材を3万人育成する計画を打ち出した。この目玉となるのが、エチオピアやセネガルなどアフリカ10カ国に設立する「TICAD産業人材育成センター」だ。職業訓練のエキスポートをこの拠点に送り込む。
「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」(安倍イニシアティブ)も立ち上げる。これは、日本アフリカ間のビジネスを将来担う優秀なアフリカの若者を、日本の大学・大学院へ留学させ、さらには日本企業でインターンの経験を積む機会を与えるもの。規模は、5年間で1000人。
このほか、国際協力機構(JICA)と海外産業人材育成協会(HIDA)がすでに実施している人材育成事業や、国費留学生制度なども活用する。
日本によるアフリカでの人材育成の成功事例として、安倍首相は「トヨタ・ケニア・アカデミー」を挙げた。トヨタがケニアに作ったこの学校は、JICAとの協力で、自動車整備、建設機械、農業機械などの技術者訓練を実施している。
■味の素の離乳食サプリを絶賛
保健分野では、万人にとっての保健医療「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)を推進していく。保健分野への支援額は約500億円(約5億ドル)。
アフリカでの保健・栄養改善の取り組みとして安倍首相は、味の素がガーナで事業化した離乳食サプリメント「KOKO Plus」(ココプラス)を紹介した。
ココとは、ガーナの伝統的な離乳食だ。これに、味の素の技術を駆使し、栄養分をプラスしたのがココプラス。ココプラスを摂取した新生児は、体重が増えるという。
「素晴らしいのは、味の素はこれを現地の大学と一緒に開発したこと。これを広める仕事もまた、JICAだけでなく、米国国際開発庁(USAID)も巻き込んだ。官民協力の日本の外交戦略としてUHCを進めていきたい」と安倍首相は述べた。
■「稼ぐための農業」への転換を
安倍首相は、アフリカが直面し続けてきた食料問題にも言及。「食べるための農業」(自給自足)から「稼ぐための農業」への変換を訴えた。
基調講演の中で安倍首相が「立ってください」と紹介したのがJICA国際協力専門員の相川次郎氏だ。相川氏は、青年海外協力隊員としてタンザニアで農業指導に携わって以来、一貫してアフリカ農業にかかわってきた。JICA専門家として赴任したケニアでは、2500人の農民の所得を倍増させた実績をもつ。
相川氏がとった戦略は、農業に携わるアフリカの女性たち自身が、消費市場は何を求めているのか調査し、売れる作物を選び、実際に栽培するまでのプロセスを研修として提供するというやり方。農民自らに考えさせるやり方は「SHEP」(シェップ)アプローチと呼ばれ、日本は今後、10カ国で推進していく。
安倍首相は最後に、日本がアフリカとの真のパートナーシップを目指してきた取り組みを強調。「アフリカでは現在734人の青年海外協力隊員が活動している。このうち399人が女性。日本の外交の『王冠の宝石』だ」とPRした。