【どげんかせんと!ウガンダ駐在記(1)】大変だった家具探し、ガバロードの気さくな職人たち

ガバロード沿いの家具屋

ロンドン大学大学院の修士論文の提出期限を間近に控えた5月、東アフリカのウガンダで事業をするサラヤ・イースト・アフリカから、採用オファーを受け取った。この会社は、洗剤やせっけんなどの化学品メーカーであるサラヤ(大阪・東住吉)のウガンダ法人。勤務は1カ月後からと急な話だったし、私はまだ大学院生だけれども、ずっと興味があった開発ビジネス。大きな期待を胸に、6月9日、ウガンダの首都カンパラへ飛んだ。

カンパラに到着して、まずは生活の基盤を整える。携帯電話を使えるようにしたり、日本大使館に登録したり、自動車免許を書き換えたり、といろいろ手続きをした。なかでも一番大変で、最も時間がかかったのが、家具探しだった。この連載の第一回は、家具をそろえるまでの話を書いてみたい。

■家具の青空市場に行く

私は運良く、サラヤ・イースト・アフリカの事務所から徒歩3分のところに住まいを借りられた。だがこの国ではそもそも一人暮らしを想定した物件などない。なので、90平方メートルの2LDKと、独身女性にとってはやけに広い。バス・トイレも2つある。バルコニーまで付いている。窓は合計7つあるため、カーテンをそろえるのも一苦労。1カ月の家賃は500ドル(約5万円)だ。

手ごろな家具の探し方が最初はわからなくて、迷った挙句にたどり着いたのが、カンパラ中心部と郊外を結ぶガバロード(ンザンビア地区)だった。道沿いには野ざらしで、あらゆる家具がずらりと並ぶ。まさに家具の青空市場。1990年代初めからここは青空家具街だという。

ウガンダは赤道直下の国。炎天下の中、わざわざ外で家具を買わないといけないの?と思う読者もいるかもしれない。だがカンパラの標高は1190メートル。1年を通して気温は20~25度と過ごしやすい。雨も多く、緑が生い茂るため、その美しさから「アフリカの真珠」の異名をとる。

■ダブルベッドは1万円

ガバロードを歩いていると、さまざまな年代の男性が積極的に、私に声をかけてくる。家具屋の男たちだ。テーブル、いす、棚などは一通りここでそろう。

この場所の魅力のひとつは家具の安さだ。私が買ったものを紹介すると、ダブルベッドは28万ウガンダシリング(約1万円)、コーヒーテーブルといすのセットは50万シリング(約2万円)。デザインも、アフリカ的な色、柄、形を基調にしながら、木の素材感を生かした感じはとてもかわいい。

ちなみに、ハイエンド向けショッピングモールで売られるマレーシア製家具の価格はガバロードの1.5~2倍だ。ダブルベッド50万シリング(約2万円)、コーヒーテーブル30万~60万シリング(約1万~2万円強)など。家族向けのソファーセットとなると、ざっと600万シリング(約23万円)はかかる。さっさと選んでその日のうちに持ち帰りたい客には便利だが、大量生産された形状の同じ家具にぬくもりは感じられず、私は買う気になれなかった。

■写真でオーダーメイドも

青空家具市場ではオーダーメイドも可能だ。自分の好きな形、色、柄、大きさを伝えると、1週間後には完成する。だから日本でありがちな「このソファは好きだけど、大きくて部屋に入らない‥‥」といった悩みは無用。誰もが自分好みの部屋にカスタマイズできる便利なシステムだ。

コーヒーテーブルといすのセットを探すのに訪れた家具屋のオーナー、ナッサーさんは、100種類以上のデザインが載った写真アルバムを見せながら「どれでも作れるよ。好きなものを選んで」と売り込んできた。店の敷地面積はさほど広くないため、たくさんの商品を陳列できない。代わりに、写真を使って、消費者の心とイマジネーションをくすぐる。実にこなれた商法だ。

ナッサーさん自身も、実は家具職人。29歳の彼は、10年間ここで家具を作り続けてきたこの道のプロフェッショナル。アフリカの伝統的な暮らしを描いた彫刻をいすやテーブルに彫る技術をもっている。どうせ路上で売られている家具でしょ、となめてはいけない。そのレベルの高さに驚く。

■アフリカ製家具が大人気

ナッサーさんによると、家具を買ってくれる客の数は1カ月に平均3組・人。月によってばらつきがあり、クリスマスシーズンは需要が大きいという。ウガンダ国民の6~8割がキリスト教徒なので、クリスマスには家に客を招いて、パーティーを開く。このため大きなテーブルやいすが必要だからだ。ちなみに客の6割はウガンダ人。欧州や米国、日本などから外国人が訪れることもある。

アフリカ製家具はこのところ、ウガンダで人気が高まっている。「ドバイ経由で輸入された外国製家具は質が低い。寿命はせいぜい1~2年。おれたちの作る家具は、丈夫で質が良い。30年はもつ。消費者もそれに気付き始めた」とナッサーさんは胸を張る。店の売り上げも伸びているという。

私は実際、彼のいすを購入し、はしご代わりに何度か使った。安定性は抜群で、びくともしなかった。かわいさと耐久性を兼ね備えたいすであることは間違いなさそうだ。

■おしゃべりから学ぶ

ガバロードの魅力は、家具のコストパフォーマンスの高さだけでない。家具屋たちとのコミュニケーションはとても楽しい。この記事も彼らとのおしゃべりをもとに書いた。

家具を買う際は、値段やデザインを含め、すべて直接交渉する。ソファに心ゆくまで座らせてくれたり、「ベッドがほしい」といえば、ベッドの専門店まで案内してくれたりする。家具屋たちはとてもやさしく、気さくな人ばかりだ。彼らは、時間があれば、どんなテーマでもとことんおしゃべりに付き合ってくれる。私にとって最初は大変だった家具探しが、結果としてとびきり有意義な時間になった。

さて、ガバロードの家具屋のおかげで、私好みの素敵な新居が完成した。次は、ウガンダで良い仕事をする準備だ。今度はいつ、ウガンダのことを教えてもらいにガバロードに行こうかな、と思案している。(ウガンダ=吉田沙紀)