国連がこのほど発表した報告書「ミレニアム開発目標(MDGs)2013」で、MDGsの直近の進ちょく状況が明らかになった。ほとんどの目標のターゲットとなっている2015年が近づくなか、極度の貧困の削減や安全な水の利用、スラム居住者の生活改善など多くの分野で目標達成が確実視される。だがその一方で、HIVや乳幼児死亡率など主に保健分野では十分な成果が出ていない。進ちょく状況の重要なポイントをまとめた。
■目標を達成済みまたは達成が近い分野
・極度の貧困の割合は半減
1日1.25ドル未満で生活する人の割合を90年比で半減させる、という目標は、ターゲット年より5年早く達成した。開発途上地域では、極度の貧困の割合が90年の47%から2010年は22%へと低下した。極度の貧困状態で暮らす人の数は20年間で約7億人減った。
・21億人が安全な水にアクセス可能に
21億人以上が過去20年で「改良された飲料水源」を利用できるようになった。改良された水源を利用する人の割合は、90年の76%から10年には89%に。安全な飲料水を利用できない人の割合を15年までに半減する、という目標も、ターゲット年より5年前倒しで実現した。
・感染症から助かった命は2000万人以上
マラリアの死亡率は00~10年、全世界で25%以上も下がった。これは合計110万人がマラリアによる死を免れた計算になる。結核の死亡率もまた、15年までに90年比で半分に下がる見込み。95~11年に、結核患者延べ5100万人の治療に成功し、2000万人の命を救った。
・スラム居住者は2億人減少
2億人以上のスラム居住者が00~10年に、改良された水源、衛生施設、耐久性のある家屋または十分な居住空間を手に入れた。これは、目標の1億人を大きく上回る成果。
・輸出収入に対する債務返済の割合が4分の1に
途上国の輸出収入に対する債務返済額の割合は、00年の約12%から11年は3.1%に低下した。11年には関税免除の市場アクセスも拡大し、輸出全体の80%に達した。後発開発途上国の輸出品は、この恩恵を最も受けている。平均関税率も史上最低の水準。
・飢餓人口の半減まであと少し
世界の栄養不良者の割合は、90~92年の23.2%から、10~12年は14.9%へと低下した。15年までに飢餓人口を半減させるという目標はクリアできる見通し。ただ世界ではいまも8人に1人が慢性栄養不良の状態にある。
■さらなる努力を必要とする分野
・環境破壊の脅威はより深刻に
現在の二酸化炭素(CO2)排出量は90年の水準を46%以上も上回っている。森林消失もハイペースで続く。乱獲で漁獲高は減少。保護区の指定を受ける陸地と海洋の面積は増えているが、鳥類や哺乳類などの生物種はますます速いスピードで絶滅へ向かっている。
・乳幼児死亡率はまだ1000人当たり51人
5歳未満の乳幼児死亡率は、90年の出生1000人当たり87人から、11年には同51人へと41%減少した。だが、乳幼児死亡率を15年までに3分の1(同29人)に削減するという目標に届くには、さらなる進展が欠かせない。乳幼児の死亡は、最貧地域の生後1カ月以内の乳児に集中している。
・妊産婦死亡率も10万人当たり210人
妊産婦死亡率は、90年の出生10万人当たり400人から、10年は同210人へと、この20年で47%減った。ただ15年までに4分の1(同100人)に削減するという目標は遠い。
・HIVの知識は低い水準のまま
新規のHIV感染数は減っている。だが11年末時点のHIV感染者数は推定3400万人。10年までに抗レトロウイルス療法を必要な人全員に普及させるという目標は達成できなかったが、このままのペースでいけば、15年までに到達可能。ただ、エイズのまん延を15年までに食い止め、その後減少させる、という最終目標については、HIVについての知識が低い水準にとどまっているため、厳しい状況。
・初等教育の完全普及は困難
学校に通えない子どもの数は00~11年に、1億200万人から5700万人へとほぼ半減した。だが減少ペースはここにきて停滞。15年までに全世界で初等教育を完全普及させるという目標の達成は容易ではない。
・衛生設備を使えない人はまだ多い
公衆便所や水洗トイレなど「改良された衛生設備」を90~11年に利用できるようになったのは19億人もいる。だが衛生設備を利用できない人の割合を半減するという目標は、屋外の排便をなくすことと適切な政策を策定しない限り、クリアすることは難しい。
・援助資金の減少で最貧国に悪影響
先進国から途上国への正味援助額は12年、1260億ドル(約13兆円)に上った。11年に比べて4%の減少。11年の援助総額も前年比2%減だった。援助額の減少傾向で大きな影響を被っているのが後発開発途上国。12年の後発開発途上国に対する二国間政府開発援助は13%減の約260億ドル(約2兆6000億円)にとどまった。
■進展の中に「格差」がある分野
・保健や飲料水へのアクセスで都市・農村格差
11年のデータによると、出産に熟練の医療従事者が付き添った割合は農村部ではわずか53%だったが、都市部では84%に上った。また、改良された飲料水源を利用できない人の83%は農村で暮らす。
・教育には貧富・ジェンダー格差
最も貧しい世帯の子どもが通学できない比率は、最も裕福な世帯の子どもの3倍以上。また女児のほうが男児よりも学校に通えない比率が高い。
・国家・家庭で決定権をもつのは男性
国家レベルから家庭の中まで、女性は依然として、男性と平等の立場で、さまざまな決定に参加できない。
MDGsの報告書は毎年、MDGsの進ちょくを検証するため、27を超える国連・国際機関が集計したデータに基づいて、国連経済社会局が作成するもの。今回の報告にあわせて潘基文(バン・キムン)国連事務総長は「行動を加速させれば、世界はMDGsを達成すると同時に、野心的で意欲的なポスト2015年開発枠組みに向けた弾みをつけることもできる。いまこそ、すべての人にとって、より公正で、安全で、また持続可能な未来を作り上げるための取り組みを本格化させるべきとき」と話している。