【フィジーでBulaBula協力隊(1)】国民的飲料の「カバ」、西洋化で消えゆく運命?

集まってカバを飲むフィジーの村人たち。ココナツの器を使い、年長者から年少者への順番で回し飲むのが流儀。しばらくすると村人の目がまどろんでくる

「ブラ(やあ)!」。フィジアン(フィジー人)は目が合うと、ニコッと微笑んでこう声をかけてくる。温暖な気候と海、そして陽気な人たち。これがフィジーの一般的なイメージではないだろうか――。

青年海外協力隊員として私がこの国に赴任したのは、2週間前の7月初め。いまは首都スバで語学研修やオリエンテーションなど現地訓練を受けている。訓練の目玉のひとつが、この国の文化を知る目的で組まれた、村でのホームステイプログラム。というわけで私は先日、スバから車で1時間ほどのところにあるレワ地区のワイボウ村へ3日間滞在してきた。

歓迎の儀式で、「グヌ(飲め)」と村人から渡されたのが、ココナツの器に入った薄褐色の液体。フィジーの国民的飲み物といわれる「カバ」だ。原料は、ヤンゴナというコショウ科の木の根っこ。これを粉末にして水に溶かせばできあがる。

カバを飲むときには決まりがある。まず手を1回叩き、「ブラ」(乾杯の意)と言う。そして一気に飲み干す。器を置いてから今度は手を3回叩く。

私ももちろん飲んでみた。味は苦い。単なる「根っこ水」なので、正直、おいしいとは言い難い。飲んだ後に、舌と唇がピリピリする。2杯3杯と杯を重ねるごとにこの感覚は強まっていく。

「ビナカ(おいしい)?」と村人に聞かれた。どう答えようか一瞬迷ったが、「ビナカ」と伝えたら、おかわりが注がれた。3杯飲んだところで、もう無理だとギブアップ。「ママウ(十分だ)」と断った。それを見た村人らは少し不満げだった。

ゲストの私が飲み終えたのを見届けると、村人らは年長者から順にカバを飲み始めた。ひとつのココナツの器を使って5~6人で回していく。最後に飲むのは、このカバを作った村人だ。フィジー人たちは3~4時間かけ、うまそうにカバを飲み続けていた。

このカバ、実は鎮静作用があることで有名だ。アルコールの真逆で、飲めば飲むほど気分は落ちついていく。フィジー人はカバを飲みながら、時間を気にせずにおしゃべりをするが、眠気でひとりふたりと横たわり、眠ってしまうという。ただ歓迎の儀式では初心者の私に気遣い「カバの量を手加減したんだ」と村人が後でこっそり教えてくれた。

カバは村に行かなくても、スバのマーケットや商店で気軽に買える。ただ、飲みすぎると、肌荒れなど健康に良くないとされる。このためか、日本での販売は禁止だ。フィジーの政府機関でも、日中はカバを飲むことを自粛する動きがあると聞く。

陽気なフィジー人のスローライフには欠かせないカバ。だが西洋の文化や価値観が次々と入り込んでくるなかで、カバはどんな運命をたどるのだろうか。フィジーとかかわってまだ1カ月も経っていないが、私はちょっぴり気になった。