対外債務・人権の国連独立専門家、セファス・ルミナ氏が7月16~19日、日本の政府開発援助(ODA)を評価するための情報収集を目的に来日し、外務省や国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)、国際協力銀行(JBIC)などの代表者と面談した。公式訪問を終えた同氏はこのほど、日本のODA政策についての予備的な所見と勧告を公表。このなかで、「人権擁護の原則をODAの核に据えること」「ODA予算を増やすこと」「途上国のNGOを支援すること」などを要望した。
■「人権」を国際協力の核に
日本政府に対してルミナ氏はまず、「人権に基づいた開発アプローチ」を国際協力に取り入れていくよう要請した。
国際協力政策を策定・実施・監視していくうえで、「日本政府は、人権擁護の原則をより明確な姿勢で組み入れる必要がある」とルミナ氏は指摘。そのためには、オーストラリアやカナダ、フィンランド、ドイツ、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国などのドナー(援助国)と同じように、人権・援助に関する政策ステートメントを採択すべきだ、と注文を付けた。
「人権を基本とするアプローチが開発協力の政策やプログラムの指針となれば、平等や男女参画などの達成に近づくだけでなく、アカウンタビリティと透明性の促進にもつながる。人権に基づくアプローチは、日本の開発協力の持続可能性と有効性を向上させることになる」(ルミナ氏)
日本政府主導の開発プロジェクトが環境・社会的なインパクトを回避・軽減できるよう策定された、JICAやNEXI、JBICの現行のセーフガード方針についても「もっと強化すべき」とルミナ氏は忠告した。
■ODAをGNI比0.7%に
ルミナ氏はまた、日本のODA予算が減少していることへの懸念もあらわにした。
13年の日本のODA予算は、97年の水準と比べると52.3%の減少だ。12年のODAは、国民総所得(GNI)比でわずか0.17%。これは、国連のODA目標値である「GNI比0.7%」を達成していないのはもとより、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC)加盟国(いわゆる「先進国のドナー」を指す)の平均値(同0.29%)さえ大幅に下回る。
日本は近年、長引く不況や11年3月に起きた東日本大震災の被災などで、経済・財政的に厳しい状況に直面している。ルミナ氏は、こうした中で日本がODAを継続してきたことを高く評価する一方で、「経済の回復と足並みを合わせて、ODAのGNI比0.7%という国連目標の達成に向けた明確なロードマップを策定してもらいたい」と要望した。
■途上国のNGOにも支援を
ルミナ氏は、日本政府と国際協力NGOとの連携についても言及。日本政府がNGOと定期的に対話する枠組みを構築したこと、NGOに対する財政的な支援を増やしたことを称賛した。
ODA予算からNGOに12年に供与された金額は60億円に達する。増額傾向にあるとはいえ、まだまだ相対的に少ない。11年のOECDデータによれば、日本のODAのわずか3%しかNGOには振り向けられていない。もっといえば供与先はすべて日本国内のNGOで、「被援助国(途上国)のNGOへは支援していないようだ」とルミナ氏は指摘する。
「日本政府は、被援助国のNGOとも政策対話を行い、NGOに対する支援計画を被援助国のNGOにも拡大すべきだ。被援助国のNGOに参画してもらうことで、日本のODAプロジェクトについての十分な説明責任を果たすことができ、透明性も向上する。被援助国のコミュニティのエンパワーメントにもつながる」と改善へ期待を込めた。
今回の来日を踏まえてルミナ氏がまとめる最終調査報告と勧告は、14年3月に開かれる国連人権理事会へ提出される予定。