ウガンダに3万人以上の子ども兵士、最初に受ける命令は「母を殺せ」

講演するテラ・ルネッサンスの小川真吾理事長(IDPC提供)

国際協力NGOテラ・ルネッサンスの小川真吾理事長は7月13日、学生団体IDPCが京都市内で主催した「国際開発ワークショップ~プロジェクト立案の現場を体験~」で、ウガンダの子ども兵士の実態について講演した。「ウガンダで少なくとも3万人いるとされる子ども兵士だが、女子の兵士などはカウントされておらず、実際はもっと多いと思う。自分の母親を殺せ、と司令官に命じられるケースもあり、子ども兵士は大きなトラウマを抱えている」と問題の深刻さを強調した。

■テラ・ルネッサンス、元子ども兵士に職業訓練

子ども兵士の多くは、平均12~13歳、早いと8歳ぐらいとのときに、反政府ゲリラに誘拐され、兵士になることを強要される。小川理事長によれば、ゲリラの司令官が新兵に「自分の母を殺せ」「母の腕を切り落とせ」と命じることもざらだ。

「自分の親や親せき、親しい人への残虐な行為を経験させると、子ども兵士は、頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。親を殺した子どもにとって、親より、あかの他人を殺すことは簡単。司令官の立場からすれば、何も恐れずに、殺しのみを目的とする優秀な兵士に仕立てあげることができる」(小川理事長)

こうした壮絶な現実を前に、テラ・ルネッサンスは2005年から、ウガンダで、元子ども兵士の社会復帰を支援するプロジェクトを進めてきた。同団体が受け入れる子どもの中にも、親殺しを強要された経験の持ち主はいるという。

ウガンダでの主な活動は、社会復帰に向けた「技術の習得」と「心のケア」だ。テラ・ルネッサンスは職業訓練学校を作り、元子ども兵士に木材加工や縫製の仕方などを教える。手に職をつけさせれば、仕事を得て、兵士に戻らずに生活できるからだ。また、多くの人を殺害したというトラウマを抱える子どもには専門家によるメンタルケアを提供している。「将来に希望を見出すためにこの2つは絶対に欠かせない」と小川理事長は話す。

■ゲリラがやってくる夜、子どもは都会に避難

ウガンダの村の子どもたちは夜、ゲリラによる誘拐から逃れるため、徒歩や電車で都会に行き、安全なキャンプセンターで一夜を過ごす。朝方明るくなるころに村へ戻り、制服に着替えて学校に行くという生活を送っている。こうした子どもたちのことを「ナイト・コミューター」(夜の通勤者)と現地では呼ぶ。

「反政府ゲリラは夜間に村にやって来て、子どもをさらう。村より都市のほうが安全。10キロメートルも歩き、村と都会を往復する子どももいる」と小川理事長。ナイト・コミューターは、ウガンダで4万5000人以上いるといわれる。

ウガンダで子ども兵士が生まれる一番の要因は、植民地時代の負の遺産によるものだ。ウガンダは、1962年に独立するまで英国の植民地だった。英国政府は、ウガンダで一部の人を味方につけるために優遇する一方で、その他大勢の人を被支配者に置くという「分断統治」を実施した。ウガンダ人を分断することで、不満の矛先を英国ではなく、一部のウガンダ人に向けさせるためだ。

「優遇された南部と冷遇された北部では、独立後も、経済や政治などの面で格差が残り、心理的な対立も根強い。子ども兵士の問題を解決し、テラ・ルネッサンスが掲げる『すべての生命が安心して生活できる社会を実現する』という究極の目標を達成するには、紛争そのものをなくさなければならない」と小川理事長は力を込めた。(椿原健太郎)