「母乳は人生最初の予防接種」とUNICEF、8月7日まで世界母乳週間

8月1~7日は「世界母乳育児週間」。国連児童基金(UNICEF)と世界保健機関(WHO)は、新生児が生まれてから半年は「完全母乳」で、2歳またはそれ以上まで母乳を与え続けることを推奨している。その理由は「新生児にとって母乳は免疫を得られる人生最初の“予防接種”。費用対効果が最も高い命を守る方法」(ギーダ・ラオ・グプタUNICEF事務局次長)だからだ。

■母乳効果で生存率は14倍!

UNICEFによると、完全母乳で育った新生児は、そうでない子どもと比べて、生後半年を生き延びる確率が14倍高くなる。また、生後すぐに母乳を与えられた新生児は、新生児期に死亡するリスクが最大45%減るという。

全世界で命を落とす5歳未満児の数は年間約800万人。この9割以上が途上国で暮らしている。死因の3分の1は栄養不良だが、栄養や免疫力の面で母乳は最も優れた食事といわれる。

母乳育児はまた、子どもの学習能力を高め、肥満や慢性疾患などを予防する効果もある。英米の最新研究では、母乳で育てられた子どもは、そうでない子どもに比べて病気にかかることが少なく、医療費負担が少額で済むことがわかっている。

母乳のすごさは新生児への影響だけではない。完全母乳育児をした母親は、産後半年に妊娠する可能性は低く、回復も早い。産前の体重により早く戻ることができる。産後うつや子宮がん、乳がんにかかる可能性も下がる、とUNICEFは完全母乳のメリットの大きさを強調する。

■完全母乳はたったの39

ところが完全母乳の浸透率は低い。UNICEFによれば、完全母乳で育てられた生後半年以下の新生児は2012年のデータでたったの39%。途上国では母乳をあげる母親は多くても、知識不足や風習、就業などの理由から、早い時期から水や人工乳、離乳食などを与えてしまう。

完全母乳の割合を国別にみると、世界最大の人口を擁する中国ではわずか28%にとどまっている。中国の母親たちは国外でも粉ミルクを買い占めることから、現地で粉ミルクが不足するといった事態も起きている。

これを重く見たUNICEFと中国の保健センターは5月から、完全母乳育児率を引き上げることを目的に、「愛の10平方メートル」キャンペーンを開始。これは、一定の基準を満たした授乳室を設置するという取り組みで、ウェブサイトも立ち上げた。現在は、授乳室の場所を探せる携帯電話アプリも開発中だ。

完全母乳育児率が改善されている国もある。カンボジアは、完全母乳で育てる生後半年以下の新生児の割合が00年の11.7%から、10年は74%へと劇的に向上した。またトーゴとザンビアでも、90年代のそれぞれ10%、20%から、00年は60%以上へとアップしている。

■チュニジアは6.2

その一方で、完全母乳育児率が低下している国もある。 チュニジアは、00年の46.5%から、10年末は6.2%にダウン。インドネシアも右下がりだ。ナイジェリアも停滞気味。完全母乳育児率が世界で最も低いのは、ソマリア、チャド、南アフリカだという。

費用対効果が高い完全母乳育児が広まらないのは、母乳育児を普及させる世界的なリーダーシップが十分でないこと、母乳が子どもの人生に与える重要性が低く評価されていること、母乳育児を可能とするための環境が整っていないこと――などが背景にある。

こうした状況を打開しようと、ウルグアイとアルゼンチンでは目下、ワーキングマザーの母乳育児を広めるために、ウルグアイの女優ナタリア・オレイロを起用。「母乳を与えることはあなたにとってもベスト」キャンペーンを展開している。