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東洋英和女学院大学の滝澤三郎教授(国連UNHCR協会理事長)が7月26日、東京大学駒場キャンパスで開催された公開セミナー「日本における難民の第三国定住~現状と課題の多角的検討~」で講演した。このなかで、難民キャンプなどですでに生活している難民を別の国(主に先進国)が受け入れる制度「第三国定住」について「日本の受け入れは、2012年はゼロだった。日本は難民の声を聞くべき」と課題を提起した。
■難民に来てもらえない日本
難民問題の解決には3つの方法がある。第一に、母国で安全が確保された後に帰国する「自主的帰還」。第二に、最初に逃れた国(庇護国)への定住。第三は、庇護国を脱して主に先進国(第三国)へ再定住するやり方だ。
日本は10年から、アジアで初めて、第三国定住先として難民を受け入れるパイロット事業をスタート。タイ国内にあるミャンマー難民キャンプで生活するミャンマー人を毎年30人受け入れると決定した。ところが実際は10年27人、11年18人と受け入れ数は右下がりで、3年目の12年はついにゼロとなった。
タイのミャンマー難民を長年受け入れてきたのは米国だ。ところがミャンマーの民政移管を受け、米国への再定住事業は縮小している。こうしたなか、日本の第三国定住政策は、母国に帰りたくても帰れないミャンマー難民にとって希望の光になると思われた。
ところが12年は再定住者はひとりも来日しなかった。それはなぜか。滝澤教授は「この問題を考える際に重要なのは、難民の声を聞くことだ。難民も逃げる先を選ぶことを忘れてはならない」と強調する。
第三国定住を進める一方で、日本は難民などの外国人受け入れ態勢が十分でないのが現状。その態勢を整えるためにはコストがかかる。
滝澤教授は「日本の都合だけではなく、日本が難民を選ぶのか、選ばないのか、難民が日本を選ぶのか、選ばないのか。それはなぜか、という視点をもつことが不可欠。日本の社会のあり方、今後を考えていくことが必要なのではないか」と語る。
■「人道的な国」になりたくないのか
そもそも、日本が第三国定住者を受け入れる意義は何か。「積極的で人道的な政策をとる国・日本という国際的なイメージを向上させることにつながる」と滝澤教授は話す。
難民の保護には、「庇護の提供」と「再定住者の受け入れと資金援助を通じた負担(責任)分担」の2通りに分かれる。庇護の提供は、難民条約の加盟国にとっては国際法上の義務だ。だが、負担分担には法的枠組みがなく、各国の政治的判断に委ねられる。この庇護と負担分担の組み合わせである“難民政策ミックス”が各国の難民保護を特徴づける。
日本はかねてから、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に年間150億円前後を拠出してきた。世界第2の拠出国だ。その半面、日本に直接逃れてきた難民の庇護については消極的。12年を例にとると、2545人の難民申請があったが、このうち難民として認定されたのはわずか18人にとどまった。従来の資金援助と庇護を通じた難民保護に加え、第三国定住者を受け入れることは「難民政策ミックスを多様化させる意味をもつ」(滝澤教授)。
また、世界には、12年末時点で約1540万人の難民がいる。この4割以上の約640万人が、5年以上も母国に帰れていないという。実は、難民の80%以上を庇護しているのは途上国。それゆえに十分な法的保護を受けられない難民も多い。
不遇な理由で難民となった人たちの将来のため、また日本の国際的イメージ向上のために、アジアで先陣を切って日本が第三国定住者を受け入れる意義は大きい。だからこそ、12年の結果のみで第三国定住そのものの是非を判断すべきではなく、来日者がゼロだった原因を分析したうえで、今後の第三国定住政策を充実させていくことが必要といえそうだ。(齋藤友理香)