【ガーナNOW!女子大生は見た(1)】路上の物売りはなぜ減らないのか、経済成長の陰に深刻な「南北格差」

車の間を歩く物売り

■ガーナ大学に晴れて留学

神戸市外国語大学で国際関係学を学んで3年、ついに憧れの大地、アフリカへ飛び出した。留学先はガーナ大学だ。8月1日、30時間のフライトを終え、私はガーナの首都アクラに降り立った。生まれて初めてのアフリカは私にとってすべてが衝撃的。なかでも、私の目を最も引きつけたのは「路上の物売りたち」だった。

渋滞する道路の真ん中で、車と車の間を縫うように歩く物売りたちの群れに私は圧倒された。頭の上にバナナを載せる中年女性、ビンのジュースを両手に抱える青年、「ピュアウォーター!」と叫ぶ水売りの少女‥‥。果物やジュース、スナック菓子はもちろん、かばんや携帯電話、携帯電話のプリペイドカード、車の修理用具まで何でも手に入る。

私は最初、車の窓に近寄ってくる物売りにどう対応していいかわからず戸惑った。だが3日もすれば、異様だと思った光景も日常茶飯事に。いまでは彼らから気軽に物を買うようになった。店に行くのと違い、車から降りる必要もないし、このうえなく便利だ。

■ギャングのボスはいなかった

路上の物売りについて私は、インドのスラムで育った少年を描いた映画「スラムドッグ$ミリオネア」のように、ギャングのボスがいて、子どもたちに商売させているとのイメージをもっていた。ところがガーナでは違うという。

ガーナ大学の職員や友人に尋ねると、物売りのほとんどは個人事業主。自分で品物を仕入れ、売ったぶんがそのまま自分の収入になるという話だった。少数だが、小売業者(商品の販売業者)に雇われている者もいるとのことだ。

私は実際、ガーナ大学のキャンパス内と大学近くの路上で、合計11人の物売り(14~40歳の男女)に話を聞いてみた。全員が個人事業主だった。市場や農家から商品を仕入れる人もいたが、母や祖母が作ったお菓子を売る人もいた。

■1日4000円売り上げる強者も

1日当たりの売り上げは平均25セディ(約1000円)。ただ、最も少ない人はわずか5セディ(約200円)。その一方で、95セディ(約4000円)近く売る強者もいたことに私は驚いた。

実は、ガーナでは路上の物売りは法律で禁止されている。警察の取り締まりもある。ただ物売りの数が多すぎて、どうにもならないのが実態だ。交通の妨げにもなるのでどうしても排除したいアクラ都議会は、アクラの幹線道路の交差点であり、最も多くの物売りが集まるクワメ・ンクルマサークルに「歩行者用ショッピングモール」を建設。莫大な費用をかけ、4000人の物売りを収容可能にした。アクラ都議会から承認された物売りは、このモールに自分のブースを構え、商品を販売することができる。

この政策について大学の友人は「路上の物売りはモールにいったん移っても、また路上に戻るケースも多い。だから物売りの数はあまり減っていないよ。路上ビジネスは、売店よりも高い価格を設定できるから儲かるのさ。客にとっても、わざわざ車を停めて店に行かなくて済むから、多少高くても路上で買うんだよ」と説明する。

物売りと客の利害関係は意外にもウィンウィンなのだ。

■雨が少ない北部は長い農閑期

アクラの路上で物を売る人の多くが地方出身者。西部、中部、東部、北部と、ガーナ全土からやってくる。特に多いのが北部だ。

その大きな理由は、気候に恵まれていないこと。南部では、雨量のピークが6月、10月と1年に2回ある。このため作物の栽培期間を長く確保できる。対照的に北部は、雨量のピークは10月の1回だけ。農閑期は長く、収入を補てんするために、南部へ出稼ぎに行く人は後を絶たない。職を求めて、南部の都市に移り住む人も多い。

また、海岸に面する南部は貿易で発展してきたが、内陸に位置する北部は経済発展から取り残されている。ガーナ大学の職員(40代前半)いわく「北部へ通じる道路はまったく整備されていない。だから国内外の投資家がアクセスできないんだよ。投資が入ってこなければ、発展しないし、仕事も生まれない」。

物売りではないが、アクラの市場には、買い物客の荷物を頭に載せて運ぶ「カヤイエ」と呼ばれる女性がいる。彼女らのほとんども北部出身だ。

■GDP成長率は14%なのに

ガーナはいま、経済成長が世界で最も著しい国のひとつだ。2011年の国内総生産(GDP)成長率は13.6%。ただ急成長をけん引するのは、金やカカオの価格高騰と、2007年に発見された石油。ガーナ経済は資源への依存度が高い。

経済成長の陰で、依然として減らない路上の物売り。地元紙のデイリー・ガイドによると、路上の物売りを含むインフォーマルセクターは雇用全体の7割を占める。ガーナ政府は、さまざまな雇用創出策を打ち出しているようだが、教育を受けていない若者にとって、インフォーマルでない職を得るのは至難の業と聞く。

ガーナに来て2週間。まだ何も知らないけれど、ちょっと見聞きしただけで、経済発展ありきのインクルーシブな成長は難しいのではと実感した。投資先や市場として注目を集めるアフリカだが、私は、庶民の生活をもっと見ていきたいと思う。