セネガル北部のンジャハイ村(人口133人)で教育の普及活動を始めて約半年、私は、思うような成果を挙げられず、悩む日々を送っている。最大の足かせとなっているのは、子どもの親が教育の重要性をわかってくれないこと。そこで私は、親たちを対象にした夜間学校を開設したい、というアイデアを思い付いた。今回は、そこにたどり着くまでのプロセスをつづってみたい。
■親が教育を受けているかどうか
ンジャハイ村から約10キロメート離れたところにチャンニという村がある。人口は約1500人。村人は、ンジャハイ村と同じ遊牧民プル族だ。ただこの村は、ンジャハイ村と違って、村人の間で教育が浸透している。同じプル族の村なのに教育の浸透具合に差があるのはなぜか私は気になり、その謎を探りに行った。
私を出迎えてくれたのはチャンニ村小学校の校長だった。話を聞くと、チャンニ村の小学校は創立1973年と40年の歴史があることがわかった。これは私にとってちょっとした驚きだった。この事実は、チャンニ村の小学生の親や、なかには祖父母でさえ小学校を出ているということを意味する。1996年に小学校ができたンジャハイ村とは大きな違いだな、と私は思った。
現在の校長がチャンニ村小学校に勤め始めたのは1996年。その当時は、教師が2人、教室は2つしかなかったという。ところがいまでは、教師は5人に、教室は6つに増えた。それだけでなく、図書館も建設中で、さらには学校給食の食料を貯蔵する設備の設置も計画中だ。
ちなみにンジャハイ村の小学校は、教師1人と教室2つのみ。人口が10分の1とはいえ、学校設備に違いがありすぎる。
■チャンニ村小学校の校長は「村出身」
2つの村の差はどこからくるのだろう。チャンニ村小学校の校長に私は尋ねてみた。すると校長は答えた。
「私はそもそもチャンニ村の出身。この村を発展させたいし、そのためには教育の発展が欠かせないと考えている。だから学校のさまざまな設備の整備にも力を入れている」
翻って、ンジャハイ村小学校。校長は、セネガルの旧首都のサンルイ出身だ。都会派の校長は言うまでもなく、ンジャハイ村に愛着を感じていない。村での暮らしも好きではないだろう。なぜなら週末や休暇中はほとんど、近くの町であるダーラ(私の任地でもある)で過ごしている。ンジャハイ村の村人とは希薄な関係しか築いていない。
■退学する女子の親を説得する
チャンニ村小学校もかつては、ンジャハイ村小学校と同様、10歳ぐらいで結婚する女子が多く、退学する女子児童は絶えなかったという。
だが女子教育の重要性を理解するチャンニ村小学校の校長は、優秀な女子児童を退学させようとする親を何度も訪問し、退学させないよう説得してきた。こうした地道な努力が実って、女子の退学者数は徐々に減少。いまでは児童187人の103人を女子が占め、男子を上回るようになった。
ンジャハイ村小学校の取り組みはどうか。早婚による女子の退学を食い止めようと、校長は以前、女子児童の自宅を訪問したことがある。ところがその児童の親はまったく聞く耳をもたなかった。「女子児童の退学をただ見守るしかなかった」(ンジャハイ村の校長)。驚くことに、ンジャハイ村小学校に女子児童はたった1人しかいない。
2つの村の現状を比べた場合、校長と村人の関係の濃淡、教育に対する親の意識などが明らかに違う。ただこれに加えて、ンジャハイ村には貧しさという現実もある。
私は4月に、ンジャハイ村の家計調査(対象は5世帯)を実施した。家庭の年間支出は平均で、食費の180万cfaフラン(約36万円)に対して、教育費はわずか1万cfaフラン(約2000円)だった。
ンジャハイ村の村人は、家畜はたくさん所有するが、現金をもっていない。これでは、文房具代などの教育費を捻出することは難しいかもしれない。ではどうすれば、ンジャハイ村小学校の親に、子どもの勉強をサポートしてもらえるようになるのか。私は自問自答した。
■知識を収入アップにつなげる
私が出した答えが、ンジャハイ村小学校の児童の親に、教育に関心をもってもらうことだ。そのやり方についてチャンニ村小学校の校長に相談したところ、「それには子どもの親が教育を受けられる機会を作るのが一番。教育が自分たちの生活を良くするという実感をもってもらえたら、子どもの教育にも協力的になるのではないか」とのアドバイスをもらった。
ンジャハイ村の村人は、日中は畑仕事と家畜の世話で忙しい。なので、夜の時間を使って学び場を作れたら理想だな、と私は思い始めた。早い話、夜間学校だ。
私は幸い、バッテリー式のプロジェクターをもっている。ンジャハイ村は電気が通っていないが、友人が作成した「乳業者の職業紹介」の映像を使った上映会から始めれば、興味をもってもらえるかもしれない。そこから読み書きや損益計算などを教えたらどうだろう。知識が収入アップに直結すれば、教育の重要性をわかってくれるはず、と私は期待している。
とはいえ、この構想はまだまだ妄想段階。なるべく早く実現できるよう、そして子どもたちが勉強できる環境を整えられるよう、私は、親にアプローチしていくつもりだ。(セネガル=藤本めぐみ)