タイ政府はロヒンギャ族を人道的に扱うべき、ヒューマン・ライツ・ウォッチが非難

タイ政府は、ミャンマー政府から迫害されてタイに逃れてきたロヒンギャ族に対する非人道的な扱いをやめ、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などが支援できるようアクセスを保障すべきだ――。人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは8月20日、こうした声明を発表した。

■夫に会わせると約束して強かん

ロヒンギャは、ミャンマー西部のラカイン州で暮らしてきたイスラム教徒の少数民族。仏教徒の多いミャンマーで、ロヒンギャに対する「民族浄化」など迫害が強まり、2012年10月~13年3月の半年で3万5000人以上がボートなどでミャンマーを脱出した。最大の行き先がタイだ。

ところがタイ当局は「密入国」の容疑で、13年1月以来2055人のロヒンギャを拘束している。さらに、男性は入管収容施設に、女性と子どもは社会開発・人間安全保障省の保護施設に別々に拘束するなど、家族を分断するやり方をとってきた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはかねて、難民として保護しないタイ政府のスタンスを強く非難してきたが、ロヒンギャの境遇はなかなか改善されない。最近は人身売買も深刻になっているといわれる。

タイ人やロヒンギャの人身売買業者が保護施設に入って、ロヒンギャの女性や子どもを誘い出そうとしている事実をヒューマン・ライツ・ウォッチは突き止めた。今年6月には、人身売買業者が、タイ南部のパンガー県の保護施設にいたロヒンギャの女性(25歳)を、マレーシアにいる夫のところに5万バーツ(約15万円)で連れて行くと約束しながら、この女性を繰り返し強かんしたという事件も起きた。

■収容施設で8人が病死

ロヒンギャの男性を集めた入管収容施設の環境も良くない。座る場所もないぐらい過密だという。長い場合は5カ月も閉じ込められるため、運動不足で足が腫れたり、筋肉が衰える人もいる。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、男性8人が収容中に病死した。

ロヒンギャの男性たちは7月以降、ビルマに送還されて再び迫害を受けるか、タイに無期限で収容されるしかないのではと懸念して、ソンクラー、パンガー両県の入管収容施設で抗議の声を上げ始めた。入管収容施設・保護施設から脱出したロヒンギャの男性、女性、子どもも208人に上るという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは「タイ当局は、ロヒンギャに対し、移動や労働の自由が認められる『移住労働者』の資格申請を可能にすべきではないか。ビルマ(ミャンマー)政府がロヒンギャにビルマ国籍を与えず、差別している現状を踏まえ、資格申請の要件から国籍確認を外すべきだ」と訴える。

■洋上でロヒンギャを追い返す

ロヒンギャに対する迫害がとりわけひどくなったのは、ロヒンギャと仏教徒のアラカン族が衝突した12年6月からだ。アラカンのリーダーや治安部隊などはこれ以降、ロヒンギャに対する「民族浄化」作戦を始めた。

多くのロヒンギャが難民化していることから、国際社会はタイ政府に対し、タイに上陸したロヒンギャに一時的な庇護を与えるよう強く求めてきた。この結果、現在では「収容」の方針が一応は採られている。13年1月以来、1800人以上のロヒンギャが、入管の収容施設と政府の保護施設に移送された。

だがタイ海軍は依然、ロヒンギャの難民船がタイ領の海岸に接近すると、航行を停止させ、マレーシアかインドネシアに出航するとの条件付きで、燃料や食料、水などの物資を与えているという。洋上でロヒンギャを臨検し、数千人を、マレーシアに追放したり、密入国業者や人身売買業者に引き渡したともいわれる。

世界人権宣言は、迫害から免れるため避難する権利をあらゆる人に認めている。タイ政府は難民条約を批准していないが、「国際慣習法により、タイ政府にもノン・ルフールマン原則(追放及び送還の禁止)を尊重する義務がある」とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。