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広がるごみ山とくすぶる煙、鼻をつく異臭。フィジー西部にあるシンガトカ廃棄物最終処分場へ初めて行ったとき、高度成長期で沸いていた日本にもこんなところがあったのかもしれないな、と私は思った。ここは「南国リゾート」のフィジーだが、処分場を見ていると、そうした華やかな顔はほんの一面にすぎないことが痛いほどわかる。
■野積みでごみが自然発火
青年海外協力隊員(環境教育)として、私がシンガトカ町役場に配属されたのはひと月前のこと。今は町の様子の把握と、町から出るごみの流れを調査しているところだ。とにかく足を使って、現場を見て回っている。
何日かかけて町のごみ排出状況を確認したあと、ごみの行き先がふと気になった。町役場が管理する処分場まで連れて行ってほしい、と同僚に頼むと「ちょっと今は‥‥」となぜか言葉を濁す。渋る彼らを説得して、処分場に行った瞬間、その理由がわかった。私に処分場を見せたくなかったのだ。
そこは典型的な野積み(オープン・ダンピング)方式の処分場だった。トラックで運ばれてきたごみを砂地の上に積み上げるだけ。もちろん分別や埋め立てなどない。この処分方法が一番コストがかからないからだろう。
さまざまな種類のごみが入り混じった山からはところどころ火の粉が見え、周囲は煙で覆われていた。ごみが堆積してガスがたまり、自然発火を起こしている。
シンガトカ町内で、ごみの収集業者が分別そっちのけでプラスチックごみや生ごみ、日本でいう粗大ごみまでをも一緒くたに回収していたのを見たとき、嫌な予感はしていた。ただ、最終処分場の環境がここまでひどいとは予想していなかった。
あっけにとられたが、私は気を取り直して調査を始めた。ごみの山を凝視すると外国製品が目立つ。フィジーに限らず南太平洋の島国は、生活用品の多くを輸入に頼っている。ペットボトルからプラスチック容器、電化製品にいたるまでたくさんの「多国籍ごみ」が散らばっていた。
■処分場はリゾートホテル御用達
「処分場にごみを運ぶ人はだれ?」「一度に運び込まれる量は?」――。私は、一通りの質問を3人の処分場スタッフにぶつけた。その際、処分場に出入りするトラックの記録帳を見て驚いた。1日に出入りするトラックの6~8割が、周辺のホテルからやって来ていたのだ。
シンガトカ町周辺は海とビーチが美しく、海岸線にはリゾートホテルが建ち並ぶ。宿泊客のほとんどは外国人。その大半がオーストラリアや欧米からで、アジア系はたまに見かける程度だ。
町役場の推定によると、町全体のごみの65%がホテルから出ているという。フィジー人が出すごみは4割にも届かない。つまり、処分場が受け入れるごみの多くは外国人が出したものだった。私は同じ外国人として、これは見過ごすわけにはいかない問題だなと思った。
処分場のスタッフはもちろん、この現実を知っている。どう考えるのか尋ねてみた。すると「外国人観光客はこの町へお金を落としてくれる。だからごみはしょうがないことなんだ」との答えが返ってきた。
未整備の処分場自体は、国際協力機構(JICA)の支援が入り、改修工事の見通しが立ったところだ。ただ、たとえ工事をして処分場の受け入れ量が増えても、肝心のごみが減るわけではない。
観光は、国土が狭く、国内で産業を興しにくいフィジーにとって、一番の収入源。それだけに、ごみの排出規制をホテルへ大々的に求めるのは難しい。
「経済」と「環境」の兼ね合いをどうとりながら、ごみの量を削減していけるのか。最終的な判断はフィジー人へ任せたい。だが、私はそれを支えつつ、ごみ減量につながる何らかのアクションをホテルや観光客にも求めていくつもりだ。ごみ山を駆け回りながら、またひとつ私の課題が増えた。