シリア、エジプト、中央アフリカ共和国――世界では紛争がなかなか収まらない。国連の潘基文(パンキムン)事務総長がシリアへの武力介入について「武力行使は、国連憲章51条が定める自衛権の行使か、安全保障理事会が承認した場合のみ合法」との考えを示すように、武力行使は、国際的にも認められているという現実がある。「武器輸出」と「国連平和維持軍(PKO)への拠出金」を切り口に、世界の平和に対する取り組みについて考えてみたい。
■先進国が途上国に武器を売る
世界全体の武器輸出は、安保理の常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国が世界全体の約75%を占めている。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査によると、2008~12年の武器輸出の割合は米国が30%でトップだ。以下、ロシア(26%)、ドイツ(7%)、フランス(6%)、中国(5%)、英国(4%)の順。この傾向は1960年代から変わらない。
これに対して武器輸入国をみると、インドが12%で最大。これに続くのが、中国(6%)、パキスタン(5%)、韓国(5%)、シンガポール(4%)。60年代は欧米や中東が上位にいたが、90年代に入って武器の買い手はアジアへとシフトした。
武器輸出と似た構図をしているのが、世界の紛争地帯に入るPKOの分担金だ。2013年は、上から米国(28%)、日本(11%)、フランス(7%)、ドイツ(7%)、英国(7%)、中国(7%)となっており、6カ国で全体の約70%を占めた。日本を除けば、いずれも世界の名だたる武器輸出国だ。
こうしたデータは、世界の大国が途上国に武器を売り、稼ぐ、いわば紛争を悪化させる要因を作る一方で、PKOに資金を出し、紛争後の平和構築に力を注ぐという“矛盾した現実”を如実に表している。
■武器貿易条約は平和をもたらすか
とはいえ、武器を規制する動きがないわけではない。
通常兵器の国際移転を規制する「武器貿易条約」(ATT)は13年4月、154カ国の賛成で採択された。反対したのは北朝鮮、イラン、シリアの3カ国、棄権したのはロシア、中国、インドなど23カ国だった。
注意を払うべきは、この条約は軍需産業の廃絶を目指すものではないということだ。目的はあくまで、通常兵器(戦車、戦闘機、攻撃ヘリコプター、軍用艦艇、ミサイルなど)が、国際人権法や国際人道法の重大な侵害やテロ行為などに使われないように、法的拘束力のある国際文書に基づき、武器の移譲を各国が管理する枠組みを構築するところにある。
核兵器の拡散を防ぐ核拡散防止条約(NPT)や、化学・生物兵器を禁止する条約はこれまでにもあった。だが通常兵器を規制するルールはATTが初めて。通常兵器の国際取引は、91年に任意の国連登録制度が導入され、01年に国連で小型武器の違法取引を規制する行動計画が採択されたが、法的拘束力はなかった。
最大の武器輸出国の米国は9月、91カ国目としてATTに署名した。条約は50カ国の批准で90日後に発効する。ところが米国は全米ライフル業界などからの反対も根強く、上院で出席議員の3分の2の賛成が必要な批准への進展は未知数だ。また、ロシアや中国、また最大の輸入国であるインドは署名すらしていない。
平和への道のりは近づいているのか、それとも遠のいているのか。軍需産業を廃絶する、という決定打を欠くだけに、矛盾だけが際立っている。(深澤優一)