世界開発報告2014のテーマは「リスク管理」、備えあれば貧困から抜け出せる

世界銀行は10月1日、「世界開発報告(WDR)2014」を発表した。WDRは世銀が毎年出す報告書で、2014年のテーマは「開発のためのリスク管理」。その場しのぎでないリスクへの備えは、貧困からの脱却を可能にする、とWDR2014は強調している。「困難に対処する強靭性(レジリエンス)」と「開発の機会を生かす能力」を高めることができるからだ。

世銀は、「2030年までに極度の貧困を根絶する」「所得の下位40%の人の収入を向上させる」という2つの野心的な目標を掲げている。これらを達成するうえでも、リスクの管理・軽減は不可欠だ。世銀グループのジム・ヨン・キム総裁は世銀の援助方針として「『危機が起きてから戦う』というこれまでの姿勢を見直し、今後は、先を見越した体系的な管理へと移行していく」と話す。

公共政策を進める際のリスク管理の原則としてWDR2014は下の5つを挙げている。

1)「不確実性」や「不要なリスク」を生まないこと

2)リスクや損害を他者に負わせることなく、リスクに対する計画・対策を立てられるよう、人々や機関に「適切なインセンティブ」を与えること

3)政治のサイクルを超えた制度的仕組みを構築し、リスク管理に対する「長期的な視点」をもつこと

4)透明性が高く、予測可能な制度的枠組みのなかで「適応性」を高めること

5)自立を促し、財政の安定性を維持した上で、弱者を保護すること

リスク管理に世銀が着目する背景には、途上国は先進国と比べて、さまざまなリスクに晒され、国内外からの急激なショックに弱いという現実がある。2008~09年のリーマンショックでは、多くの国で経済成長が鈍化し、貧困撲滅へ向けた歩みが停滞した。08年にグローバルで起こった食料危機でも、アフリカやアジアなどの途上国で食料価格は高騰。食料を手に入れることができなくなった貧しい人たちは飢えにあえいだ。こうしたショックの余波を受け、政情不安に陥った国もある。

途上国の多くは、社会のセーフティーネットが十分ではない。失業すると、失業保険などがないため、次の仕事に就くまでの期間、収入はゼロとなる。失業を機に、極度の貧困に再び転落することはざらだ。

リスク管理にはまた、コスト的なメリットもある。何かが起こってから対策を打つよりも、費用が少なくて済むケースが多いためだ。たとえば、栄養不良を予防する目的で「ミネラル栄養補助食品」を投入したほうが、栄養不良児を治療するコストの15倍の1にとどまるなど効率がいい。

リスク管理はさらに、貧困から脱する機会を得ることにもつながる。たとえばエチオピアの農民は畑で肥料を使いたがらないが、これは、干ばつを恐れて、肥料への投資を躊躇するという事情がある。もし干ばつというリスクに対応できていれば、エチオピア農民は肥料を買って農作物を生産するようになる。収穫量が増えれば、所得は向上し、貧困から抜け出すことも可能になる。(鈴木瑞洋)