児童労働の撤廃、予防のため、ガーナ、インド、日本で活動をするACE(エース)主催の「学生同士で考える、児童労働問題の未来ゼミナール」が2013年9月20日、桜美林大学の四谷キャンパスで開催された。同イベントは日ごろから寄せられる学生からの質問に答え、また、学生同士で思いを共有することを目的に開催された。そこで、ACE代表の岩附由香氏が児童労働の概要、国際協力事業担当の成田由香子氏がインドでの事例について講演した。
その中で、日本人も児童労働にかかわっていることに触れられた。一般の消費者はなるべく安い商品を求め、買い物をしている。それが児童労働によって生産されたものであっても、消費者はそのことを知らないことも多い。また、企業も海外でのビジネス活動の中で児童労働があるかどうかを知らず、無自覚に児童労働を生みだす構造に加担している可能性がある。
そもそも児童労働が起こる要因とは何なのか。その一つは、雇用者が利益を優先してコストを削減するため、人件費の安い労働力として子どもが雇われてしまうことだ。それはかえって大人から仕事を奪い、また大人の賃金が低く抑えられてしまうことにつながる。大人の収入が低ければその家庭は貧困に陥る。そのため、家計を助けるために子どもに労働をさせることになってしまう。岩附氏は「児童労働を需要とする企業側と、供給してしまう家庭側の都合による悪循環がある」と指摘する。
■組み換え作物を支えるのは子ども
インドのコットン畑でも児童労働が起きている。コットンを売る農家だけでなく、コットンの種子を売るために栽培をしている農家がある。その農家は種子会社に種子を売り、会社は市場を通し、コットンを作る農家に売っている。
種子生産では、品種改良による遺伝子組み換え種が急増し、児童労働に拍車をかけている。遺伝子組み換え種の種子を栽培するためには、手作業で綿花を一つ一つ受粉させる人工授粉が必要だ。よって、より多くの安い労働力の需要が増し、子どもが働かされてしまっているのだ。
さらに、子どもは雇用者に抵抗せず大人よりも言うことを聞きやすいという理由もある。子どもたちは強い日差しの中、長時間、常に腰をかがめて受粉作業をしなければならず、熱中症や腰痛などに悩まされる場合が多い。インドに限っては、遺伝子組み換え作物の生産を児童労働が支えているといえる。
こうして生産されたコットンを原料とする製品は日本にも輸入され、販売・消費されている。成田氏は「私たちの身の周りにあるタオル、ハンカチ、衣料品にもインド産のコットンが使われている。インドのコットン種子生産の約90%を占める地域には、約38万人以上の児童労働者がいる。そこでの児童労働問題は日本人の生活にも関係している。そのため、ACEではインドのコットン種子生産地域で児童労働をなくすためのプロジェクトを実施している」と語った。
国際労働機関(ILO)が2013年9月23日に発表した最新の統計では、世界に1億6800万の児童労働者がいるという。また、インドの児童労働者は世界で最も多いといわれ、その数はILOやNGOなどの報告では860万~4520万人と様々だ。児童労働はインフォーマルで行われることが多く、こうした統計の数値には幅が大きく、実態を知ることは難しい。
■農薬で子どもの命も奪う
インドのコットン畑で児童労働をしていたある少女は、農薬のせいで皮膚病にかかり、後に血液のがんで亡くなった。医者によると、がんになったのは農薬のせいだという。成田氏は「児童労働は、子どもが健康な生活を送る権利だけでなく、命すらも奪ってしまう」と指摘した。コットン生産は、膨大な量の農薬を使うといわれる。
また、成田氏は「その少女は学校に行きたいと訴えたが、家計のために働かなければならなかった。この少女のほかにも学校へ通うことができずに働いている子どもはたくさんいる。子どもは命や健康が守られ、教育を受けることが大切。親が収入を得られれば、子どもの教育を支えることにもつながる」と主張した。
こうした児童労働の現状に対して、岩附氏は「児童労働問題の深刻さについてもっと知ってもらい、意識を高めることが大切。日本でも、消費行動や企業活動を変えることが必要だ。キャンペーンをしたり、フェアトレードを推進することで、児童労働を撤廃・予防するビジネスを浸透させ、それを支持する消費者を増やそうと考えている」と強調した。(渡辺美乃里)