■14歳以下での出産は年間200万人
国連人口基金(UNFPA)は10月30日、「世界人口白書2013」を世界同時発表した。副題は「母親になる少女―思春期の妊娠問題に取り組む」。このなかで、途上国では18歳未満の少女が1日に2万人、1年で730万人が出産していることがわかった。14歳以下に限っても年間200万人に達する。
思春期の妊娠は多くの場合、少女の人生を大きく狂わせる。白書によれば、18歳以下で妊娠した少女の9割が結婚させられている。そのほとんどは自分の意思とは無関係だ。「児童婚」させられる少女の数は1日当たり3万9000人で、この9分の1が15歳未満だという。
思春期の妊娠、出産、児童婚が少女にもたらすリスクとして、報告書は主に3つを挙げている。
第一に「健康」だ。若すぎる妊娠は、成人で妊娠した女性と比べて、死や身体障害に陥る危険が2倍と高い。妊娠と出産の合併症で毎年7万人の少女が命を落としている。安全でない人工妊娠中絶を受ける少女は年間で320万人にも上る。
第二に「精神的な負担」。多くの国・地域では、妊娠したことを少女のせいにする傾向が強い。だが現実は、少女に選択肢がないこと、少女の力ではどうにもできないことが妊娠の背景にある、と白書は指摘する。
思春期の妊娠をする少女の特徴として白書は、「社会から無視されている」「情報や各種サービスにアクセスできない」「自分の人生の選択について発言権がほとんどない」「自分の現在や未来の生き方が他人に決められる」――などを挙げている。一言でいえば、恵まれない少女のほうが“若すぎる妊娠率”は圧倒的に高い。
また、こうした少女たちは搾取、児童婚、性行為の強制、性暴力の対象になりやすい。
第三は「教育」だ。妊娠した少女のほとんどは学校を中退するのが実情。白書は、通学する期間が長いほど、妊娠する確率は低く、児童婚の可能性は少ないという“教育効果”を明らかにしている。
教育を受けることによって、将来の仕事や暮らしに備えることができ、自尊心と地位が向上していく。少女はその結果、自分の人生について自分で決断できるようになる。
特筆すべきは、若すぎる妊娠は少女の人生だけではなく、国家の発展をも阻害していることだ。中国を例にとると、思春期の妊娠によって失われる年間の国家利益は国内総生産(GDP)の1%に当たる1240億ドル(約12兆円)。ウガンダでも同30%の150億ドル(約1兆5000億円)との試算がある。
■解決には「社会正義の追求」を
どうすれば解決できるのか。白書は、思春期の妊娠について新しい考えと活動を起こすことが大事だと強調している。これまでは「少女の『行動』が変わるよう介入してきた」が、そうではなく、少女の人的資本を高め(エンパワーメント)、権利を保護し、意思決定する力を少女自身に与えられるような多様なアプローチへ方向転換する必要を説いている。
このためには、政府、地域、家族、学校が一体となって取り組むことが欠かせない。問題の根本的な要因は、貧困やジェンダー不平等、さまざまな差別、教育やリプロダクティブヘルス(性と生殖にかかわる健康)サービスへの不十分なアクセスにあるという現実を認識することが第一歩。言い換えれば、社会正義の追求、平等な開発、少女のエンパワーメントこそが、思春期の妊娠削減につながる。
世界人口白書は、下の8つの方法を解決策として提示している。
1)10~14歳の少女に働きかける
2)思春期の少女の教育に対して戦略的な投資を行う
3)人権に基づいたアプローチを採用し、人権に対する国際的責務に応える
4)思春期の若者が包括的な性教育、サービス、妊産婦保健ケアを利用できるよう保証する
5)児童婚と性的暴力・強要を防止する
6)多面的プログラムを支援する
7)男性・男子を巻き込む
8)ミレニアム開発目標(MDGs)が終了する2015年後に向けて思春期の健康と権利を支援するための基礎づくりを行う
思春期の妊娠問題は、実は途上国の問題だけではない。日本でも思春期の若者への包括的な性教育が整っているとはいえない現状がある。妊娠を防ぐ責任は少女自身にあるという根強い考えや妊娠した場合には少女に落ち度があるという前提がないとはいえない。
UNFPA日本事務所は11月7日、公開シンポジウム「母親になる少女―思春期の妊娠問題に取り組む」を公益財団法人ジョイセフと都内の国連大学で共催する。今回発表された世界人口白書を踏まえ、思春期の妊娠に関連する課題を掘り下げ、日本も含めた国際社会がどうやって解決に向けて取り組むべきなのかを議論する予定だ。(石岡未和)