中国で環境問題の住民運動が少ないのはなぜか?

「中国の環境問題は日本でも報道されているが、中国各地で住民運動が起きているというニュースはほとんど流れていない。なぜか?」という質問をganas編集長から受け、考えてみた。

確かに、PM2.5(2.5マイクロメートル以下の粒子状物質)に代表される大気汚染、地下水をはじめとする水質汚濁、砂漠化など、環境問題の報道はここ中国でも後を絶たない。

上海デイリーも10月23日付記事で、ハルビンの大気汚染の深刻さを大きく伝えている。それによると、PM2.5の影響で学校が休校になったほか、飛行機の発着が止まった。視界が20メートル以内に限られてしまう場所もある。また「息をすると気分が悪くなる」環境の中で、マスクを三重に着ける人もいるとのことだ。

PM2.5の濃度は、1立方メートルあたり平均247マイクログラムと驚くほど高い。これは、世界保健機関(WHO)の安全基準値25マイクログラムのおよそ10倍だ。この要因となっているのは「急速な開発」と「膨大な量の石炭の使用」の2つ。とくに冬を迎える前、公共暖房システムの稼働が始まる時期にPM2.5の排出量は増える。

ただ上海に住んでいても、環境問題に対する個人のコメントを見たり聞いたりすることはあるが、「住民運動が起きている」という報道はあまり目にしない。

ひとつ覚えているのは、2012年7月に報道された、江蘇省南通市にある王子製紙の工場から出る排水への反対運動だ。排水が水質汚濁につながるということで抗議活動が起きたという。どう解決したかはわからないが、新聞に載った写真を見る限り、やや過激な表現をする人たちの様子があったように記憶している。

2012年の春には砂漠化が進む地域の村の移転を取り上げたドキュメンタリー番組をテレビで見た。砂嵐が農地を荒らし、井戸の水は涸れ、困り果てた村人は集団移転をしたという。番組では、長年過ごした家を離れられずにひとり残った老人にスポットを当てていた。集団移転は、環境問題への解決とはいえないが、住民の暮らしを守るための対応策のひとつだと思う。

こうした状況から考えると、環境問題には複数の原因があって、運動の向かう対象が特定しづらいのかもしれない。表面化した問題に対しては、遅かれ早かれ政府は対応する。だとすれば、住民運動に打って出る意味はあまり感じられないのかもしれない。

報道規制の問題もある。中国では、現体制の維持に悪影響を与えかねないニュースをメディアが扱うことは難しいという現実がある。「人治国家」と呼ばれる中国で、関係者の合意のもとで実施する活動については、よほどの害がない限り、または強い権力をもつ人物の後ろ盾がないかぎり、その誤りを指摘するのは難しいだろう。

これらが中国で2年暮らして感じる冒頭の問いへの答えだった。(上海=真下智史)