緊急援助の非政府組織(NGO)「難民を助ける会」(AAR、本部・東京)は3日、台風30号(ハイエン)が11月中旬に上陸したフィリピン中部の被災・支援状況についての緊急報告会を都内で開いた。報告したのは、11月14日にフィリピンに渡り、17日からセブ島北部、レイテ島東部で活動するAARの主任、杉澤芳隆さん(33)。
AARが主な支援対象とするのは障がい者や高齢者だ。ところがフィリピン政府は、障がい者らの被災状況を把握する調査を実施していない。AARは、被災者の中でも障がい者はとりわけ厳しい避難生活を強いられているおそれがあるとして、目下、人海戦術で足を運び、被災者の安否確認や避難生活の状況把握を急いでいるところだ。
被災地では、台風上陸から3週間以上経過した現在も電力はストップしたまま。電話回線などの通信の復旧も局地的だ。ハイエンの被害は12月3日現在で死者5600人以上、行方不明者1700人以上に上る。
■住民リストは台風で流失
「どこに、どれだけの障がい者がいるか分からない」と杉澤さんは淡々と現地の状況を語る。地元の自治体が住民リストを紙で作成していたが、台風で流失した。AARは、首都マニラやセブ、レイテで活動するNGOなどを通じ、被災者の安否確認、ニーズなどの聞き取り調査を実施している。
AARはまず、被害が大きく、支援の届きにくいセブ島最北端の地域や周辺の離島の1200世帯に食料(140万円相当)を配付すると決定した。12月から2014年2月にかけて再び、避難生活を送っている障がい者の安否確認、ニーズ調査をする予定だ。その後、具体的な支援内容を決める。現在検討中の支援物資は、生活を補助する杖や車椅子など。
2009年9月、今回と同じくフィリピン中部を襲い、死者約300人を出した台風16号(フィリピン名オンドイ)の被災地でも、障がい者らを中心に支援したAARは「『背骨が痛く、普通のベッドでは眠れない』といった声があり、マットレスを送った」という。今回も前回と同じく、被災者を細かな視点で見て、支援する必要が出てきそうだ。
■避難所暮らしは1割以下
ハイエンでは、1500万人が被災、民家120万戸が全半壊した。避難所は1104カ所あるが、「避難生活を送っているのは1割以下」という。「東日本大震災では震災直後、多くの被災者が体育館などの公共施設で避難生活を送った。フィリピンではしかし、被災しなかった親せきを頼るか、損壊した自宅跡で暮らす被災者がほとんど。台風で壁や屋根が吹き飛ばされても、残った家屋の骨組みにブルーシートをかぶせて暮らす家族もいる」。杉澤さんは、日本とフィリピンで、被災者の生活に大きな違いがあったと指摘した。
フィリピンは、甚大な被害規模で国際的に注目され、各国政府や国際機関、市民団体などからの支援を受け、食料や飲料の供給は広い範囲に行き届いているという。
杉澤さんは「今後は、損壊した家屋の再建に向けた支援が必要になる。釘やネジ、トンカチなどの工具があれば、簡素だが、中長期間暮らせる家が住民自身の手で再建できる」と今後の支援活動の方向性を語った。
「レイテ島のオルモックで、『Roofless, Homeless, but not Hopeless(屋根もないし、家もないが、希望はある)』と書かれた看板があった。(現地の人は)家族や家をなくしたり、大変な経験をした。けれど、カメラを向けるとみんな笑顔を見せてくれる。国家の再建に向けたフィリピンの人たちの力があると感じ、それを支えたいと思った」。杉澤さんは報告の最後、被災地での活動をこう語り、締めくくった。(篠塚辰徳)