南米大陸で私が好きな場所のひとつがアマゾンだ。私は12月、ペルーの首都リマから飛行機に乗って、アマゾンへ2泊3日の旅行に出かけた。今回は、そこで目にした「経済成長で良くなった暮らし」と「ごみのポイ捨て」の関係についてつづってみたい。
ペルーで、アマゾンの拠点となるのは、北東部の町イキトスだ。リマからイキトスへは2時間のフライト。私はそこでアマゾンツアーに参加した。内容は、ガイド、アマゾン川沿いのロッジ、ボート、食事、ピラニア釣りやカヌーでのワニ探索、先住民の村の訪問などのアクティビティなどの代金すべて込みで450ソル(約1万5000円)だった。
ツアーは、珍しい動植物を観察するため、アマゾンの森の奥にも入る。日差しが強く、蒸し暑いアマゾンだが、森の中は木々が生い茂り、割と涼しい。森の中を歩いているのは、近くに住む先住民と私たち観光客のみだ。ほぼ手付かずの森に一本道が通っている。
汗だくになったころ、川にたどり着いた。そこで一息ついていたら、「ポチャン」という音が背後から聞こえた。振り返ってみると、川面に、さっきまでなかった空のペットボトルが浮いている。ツアーの参加者である、リマ在住のペルー人がペットボトルを投げ捨てたのだ。
「アマゾンの大自然の中にポイ捨てするなんて。なんでそんなことするの? ペットボトルは持ち帰って捨てないと」。私は憤って思わずこう注意した。するとこのペルー人は悪びれる様子もなく「もう飲み終わったし、必要ないから捨てただけだよ。みんなだってそこらへんにごみ捨てているよ。リマの道はごみで汚いしさ」と言い返してきた。
私たちの小競り合いを見るに見かねてガイドが、ペットボトルを川から拾い上げた。「ペットボトルは土に返るまで100年以上かかるから、森に捨ててはいけない」と説明し、再び私たち一行は歩き出した。しばらく行くと今度は大きなペットボトルが捨てられていた。ガイドによると、先住民が捨てたものだろうとのことだった。アマゾンで暮らす先住民は、ペットボトルも果物の皮などと同じように森の中に捨ててしまうのだ。
ペルーはこのところほぼ毎年5%以上の経済成長を遂げ、ペルー人の暮らしはどんどん良くなっているように見える。貧困率も30%以下になり、初等教育就学率は98%と順調に改善されている。街中にはモノが溢れ、ペルーの人たちは国内旅行も楽しめるようになった。
だがその一方で、教育の質の低さ、消費文化に伴うごみ処理など、残された課題はまだまだ多い。途上国を支援する日ごろの仕事から解放されるために休暇で訪れた大自然の中で、私は、経済的に豊かになっても“新たなモラル”を確立するにはまだまだ時間がかかるという現実を痛感した。
由佐泰子(ゆさ・たいこ)
ペルー・リマ在住。2013年1月から、国連世界食糧計画(WFP)ペルー事務所でプログラム・オフィサー。JETRO開発スクールIDEAS、カリフォルニア大学教育大学院卒。高校教師、青年海外協力隊(ベネズエラ、青少年活動)、宮城教育大学の教務補佐員、東日本大震災の被災地を支援するNGO勤務を経て現職。仙台市出身。