ドミニカ共和国で青年海外協力隊員として活動して半年、文化の違いを痛感する毎日を送っている。私の主な活動は、環境教育の授業を小学校ですること。ところが、この国の学校内での“常識”に驚き、価値観との戦いに頭を悩ましている。今回は、私が直面しているエピソードを紹介しながら、私の心の奥底にたまった思いをシェアしたい。
私の任地ロスイダルゴスの小学校は、午前と午後の二部制で、1クラスの人数は30人前後。マンモス教室では決してないのに、とりわけ低学年の学級は崩壊寸前だ。教室の中を児童は勝手に歩き回るし、それを注意する教師の怒鳴り声が教室に響き渡る。
この国の小学校には、「ミリエンダ」と呼ばれる、政府から提供される軽食を食べる休み時間がある。炭酸入りジュースやキャンディ、スナック、揚げ物、パンなどを児童たちは教室や庭で食べ、その後は、お菓子の袋やプラスチックのカップをそのまま床にポイ捨て。授業開始のチャイムが鳴ると、自分の教室に行ってしまう。
ドミニカ共和国の小学校には、日本のように、そうじの時間はない。児童が捨てたごみをそうじするのは清掃員の仕事だ。私は、教育現場で掃除の習慣を身につけさせることも重要なのだな、と痛感するようになった。
また驚くのは、ミリエンダの時間が終わり、授業が再び始まっても、児童はキャンディやガムをくちゃくちゃと食べ続けること。人の話を聞くときはきちんと注目しましょう、という日本の教育を受けて育った私はかなり衝撃を受けた。
ひどいのは児童だけではない。授業中にもかかわらず、「ほら! ジュースとお菓子を持ってきて!」と児童に頼む教師すらいる。児童に板書をさせている間、自分は一休みしようとしているのだ。携帯電話で誰かとのおしゃべりに熱中している教師もいる。
私は一度、ドミニカ人の教師に質問したことがあった。「授業中にお菓子を食べながら児童が先生の話を聞くのは失礼じゃないの? 日本ではありえないよ」
するとこんな答えが返ってきた。「確かに良くない文化だよ。でも、僕たちドミニカ人はそういう教育を受けてきた。だから教師自身も、何が悪いのか、なかなか気付かない。こんな環境に慣れてしまっているんだ」
良くないと自覚していながら諦めている教師の言い訳を聞き、私は、納得いかなかった。だが同時に、習慣を変えることの難しさも少しわかった。
授業中の態度にはとても甘い一方で、あいさつにすごく厳しいのがドミニカ流の教育方針だ。この国では児童が教師にあいさつするときに「ハグ」と「キス」をしないのは「失礼」にあたる。けれどもなかには恥ずかしがって嫌がる児童もいる。そうした児童に対して教師らは注意し、キスとハグのあいさつを強制させるほどだ。
この文化は日本とは異なるが、私はとても気に入っている。教師と児童の距離感を近づけ、家族のように深い絆で結びつける効果があるのでは、と思っている。
協力隊員としてドミニカ共和国に来るまで、私は正直、「学校の文化」の違いでここまで悩むとは予想していなかった。良い文化はもちろん私も見習っていく。難しいのは、児童と教師の授業態度など、理解しがたい文化を私の気持ちの中でどう咀嚼していくかだ。ドミニカ流に染まってしまっては日本人としての私の存在価値もなくなるし、かといって日本流を押し付けてもうまくいかないのは明らか。ではどこに“妥協点”を見出せるのか。私の悩みは深い。
種中 恵(たねなか・めぐみ)
ドミニカ共和国で活動する青年海外協力隊員(職種:環境教育)。配属先はプエルトプラタ県ロスイダルゴス市役所。1986年生まれ。大阪府出身。京都外国語大学でポルトガル語を専攻。大阪府の高校で英語教師として2年勤めた後、退職し、協力隊に参加。派遣期間は2013年7月~15年7月。