フィリピン・セブ市街から車で約45分、標高1000メートルの山々を間近に感じるスドルン地区で農業を営む一族がいる。エディ・セクレタリアさん(32歳)もそのひとり。有機栽培の難しさを感じながらも、エディさんの農園では、消費者のニーズに対応するため、農薬を使った栽培と有機栽培の比率は今のところ半々だ。
エディさんが栽培する「カイラン」は、チャイニーズ・キャベツという別名を持つ緑黄色野菜。暑さに強く、栽培が容易といわれる。といってもカイランの葉が虫に食われるのは必然だ。「スーパーマーケットなどの小売り業者は見た目の悪さを気にするため、無農薬野菜の取引を好まない」(エディさん)。しかし、この虫食い野菜を求めて、ここまで足を運ぶ顧客がいる。セブ在住の韓国人だ。
エディさんによると、韓国人は、ピピノ(キュウリ)の種を持って、「無農薬野菜を作ってくれ」と依頼する。キムチの素材にするためだという。種が入った小さな袋にはハングルの文字が書かれている。
韓国人以外にも、中国人や日本人からの依頼も多い。「なぜなら彼らはお金があって、無農薬にこだわることができるからだ」とエディさんの妻シェイラさん(28歳)は説明する。エディさんの農園で作る農産物は、カイランを例にとると、農薬を使った場合は1キログラム40ペソ(約100円)、無農薬では1キログラム115ペソ(約290円)と価格は3倍になる。
フィリピン農業省は有機栽培を推奨しているが、無農薬野菜は病害虫の防除にコストと手間がかかり、大量栽培は難しいのが現実だ。シェイラさんは「カイランを消費者がどう調理するか私は知らない」と興味なさげ。野菜生産者と消費者の距離は近くて遠いといえるかもしれない。(高崎浩子)