フィリピンは、アジアで最もジェンダー格差が少ない国だ。世界経済フォーラムのジェンダー指数ランキング(2013年度)では世界5位。上位を欧州各国が占める中、アジア諸国の中では異例のトップ10入りだ。ところが実際は「怠け者の男に働き者の女」が一般的となっている。タリサイ市のカワヤナン村で取材した30代の男女の証言をもとに、統計と事実のギャップを考察してみた。
わかったのは、女性は「よく働いてくれる」一方、男性は「あまり働かない」上、「稼いだお金を無駄遣いしてしまう」こと。統計上はジェンダー格差が少なく、 不満も少ないはずの国で、女性は男性に対し「もっと手伝ってほしい」「お金を浪費しないでほしい」と怒りを募らせている。
■よく働く妻=良妻?
漁師の男性(35)は、毎朝3時ごろ漁に出て、8時ごろには家に戻ってくる。家では妻が待っていて、魚を市場に持って行って売る。1日に50ペソ(約115円)から70ペソ(約175円)の収入があるという。「僕の妻はいい売り手だよ」と笑う。
昼ご飯の後は、釣り糸を直したり、家具の修理をしたりして過ごしながら、妻が夕食を作るのを待つ。その間妻は家にいて、子どもの面倒を見ながら家事をしているという。
「妻はよくやってくれている」と、満足気な表情を見せる漁師の男性。「働く女性は良い妻である」という価値観が浸透しているようだ。
■無駄遣いする夫=「お金の管理は任せられない」
一方で、フィリピン女性たちは全く違う意見を持っていた。それは、手伝ってくれない夫への強い不満だ。
漁師の夫を持つ女性(36)は、魚が獲れた日は毎朝、市場まで三輪車で魚を運んでいく。市場から帰ってきてからは掃除や洗濯、料理、子どもの世話など、家事が山ほど待っている。それでも、夫は何も手伝ってくれないのだという。
魚を売って稼いだお金も、彼女が管理する。「私がお金を管理していないと、夫は浪費してしまうから」とため息をつく。通訳の女性(27)もすかさず、「煙草のんだり、ギャンブルしたり‥‥ね」と頷いた。
男性が働く女性を求める一方、女性は男性にもっと手伝ってもらうことを求める――。女性の不満が噴出し、お互いの要望が食い違っているさまが浮かび上がってきた。
■不満のはけ口は「海外の男性」を求める?
フィリピン人男性への不満は、女性たちを外国人男性との結婚に駆り立てている。彼女たちのお相手としてよく選ばれるのが日本人だ。
厚生労働省によると、日本では年間約3万組が国際結婚をする。そのうち約4000組が、日本人男性とフィリピン人女性の夫婦で、全体の約1割に上る。日本人男性もフィリピン人女性を伴侶として選ぶ傾向にあり、この数字は、中国人女性とのカップルに次いで2番目に多い。
「きちんと手伝いをして、お金を無駄遣いしないでほしい」というフィリピン人女性の切実な願いはある意味、日本で成就されているのかもしれない。