漁業を継いだセブ島のUターン漁師、「マイクロクレジットのおかげでエンジンを買えた」

漁師のジュンジュン(左)とグレマー牧師

セブ島タリサイ市の漁師ジュンジュン・パンサイは故郷にUターンし、2014年から漁業を始めた。35歳。彼はかつて、隣のセブ市で家具のペンキ塗りなどの仕事を転々としていたが、見切りをつけ、家業の漁業を継ぐことを決心した。漁師への転身を可能にしたのは「マイクロクレジット(小口融資)のおかげ」とジュンジュンは話す。

マイクロクレジットをジュンジュンに提供したのは、14年5月に誕生したばかりの「トゥライサ・キナブヒ漁業組合」だ。ジュンジュンは家族の連帯保証付きで1万3058ペソ(約3万2600円)を借り入れ、舟に取り付ける中古のエンジンを買った。舟は、漁師の父から譲り受けたという。

返済期間は10カ月。元本に加えて、利子として2546ペソ(約6370円)を払う。総額は1万5604ペソ(約3万9000円)。10カ月換算で金利は19.5%と高い。だが「漁協の組合員になって融資を受けられるのはメリットだ」とジュンジュン。毎週100~300ペソ(250~750円)をコツコツと着実に返済している。

ジュンジュンは晴れている日は毎日、海に出る。長さ1キロメートルのナイロン糸を利用した延縄漁法で、日曜日も漁をする。「週末には、隣のセブ市から魚を買いにタリサイ市のマーケットにやって来る人が多い。だから平日よりも収入はいい」と話す。

トゥライサ・キナブヒ漁業組合が提供するマイクロクレジットの原資は、実は日本のNGO「ハロハロ」から提供されたものだ。ハロハロは、フィリピン・ビサヤ地方を2013年11月 に襲った台風ハイエンの被災地に緊急援助もした。その際に、フィリピン側のカウンターパートであるグレマー・ラダ牧師から「継続的に支援するには、住民が 運営する協同組合と、その組合が運営するマイクロクレジットが欠かせない。しかし、そのための原資が足りないから支援を欲しい」との要請を受けた。

これを受けてハロハロは寄付金25万ペソ(約75万円)を日本で集めた。グレマーは漁業組合と生活協同組合を設立し、18万ペソ(約45万円)をマイクロクレジットの原資に回した。漁協の理事長を務めるグレマーは「組合員と融資契約を結ぶ際は、毎週または毎月確実に少額を返済すること、ローン返済を終了しないと次のローンを受けられない――など複数の条件を確認している」と話す。

タリサイ市のなかの漁村に生まれ、漁師一家のもとに育ったジュンジュン。一度は故郷を離れたものの、マイクロクレジットをきっかけに故郷で新しい人生を踏み出しつつある。(敬称略)