トルコにとってシリア難民は“お客様”ではなく“お荷物”、イスタンブールでは住宅の賃貸価格上昇も

日本中東学生会議の田中雅人代表(東京大学2年)

「シリア難民はもはやキャンプ内にとどまらない。キャンプ外に住居を借りて暮らすケースも増えている。そのためにトルコのイスタンブールでは賃貸価格も高騰している」。11月14日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)で日本中東学生会議が「2014年度招聘事業報告会」を開いた。同団体は8月26日から9月4日までの10日間、中東の学生ら8人を日本に招聘。日本の学生と招聘者らはシリア問題を議論した。メンバーの佐々木啓介さん(早稲田大学2年)は、トルコのシリア難民問題を紹介。シリア難民が隣国トルコに流入し、難民キャンプ外の住居問題が発生していると強調した。

佐々木さんは、トルコ人3人が招聘中にプレゼンテーションした内容を報告した。トルコ人のプレゼンによれば、トルコはシリア難民の流入を過小評価していた。その理由のひとつには、トルコの前身であるかつてのオスマン帝国としての誇りがあったという。オスマン帝国はとりわけ16~17世紀に中東を広域的に支配していた。帝国領内の住民を歓迎し、ムスリム(イスラム教徒)でない異教徒を寛容する政策をとっていたといわれる。その誇りゆえ、シリア難民を“ゲスト(お客様)”と考え、いずれは本国に「お帰りになる」とトルコ政府も想定していた。

しかし、シリア南部のダラアで2011年3月に発生した反政府デモをきっかけとするシリア内戦は次第に軍事化。トルコに流入する難民は増加の一途をたどった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の2014年8月のプレスリリースによれば、トルコ国内にいるシリア難民は約81万人。トルコ国内でも問題が生じている。イスタンブールでは、難民がキャンプ外で住居を貸借する例が増加。賃貸物件の価格が高騰している。イスタンブールのファーティ地区では通常の2、3倍の価格に跳ね上がっている。

トルコ国民のシリア難民への態度も硬化してきた。シリア難民の家や車などに危害を加えるトルコ国民も出現し始めたという。「トルコ政府も看過できなくなった。シリア難民を“バーデン(お荷物)”と考えるようになった」と佐々木さんは付け加えた。

日本中東学生会議の代表を務める田中雅人さん(東京大学2年)は「日本の学生がシリア問題に対してできることは限られている。しかし、学生という立場からでも問題を理解することはできる。理解を重ねた結果に行動を起こすきっかけになれば理想だ」と語った。

日本中東学生会議は様々な大学の学生で構成する団体。オスロ合意による中東への関心の高まりから1993年に設立。主な活動内容は現地会議の開催と招聘事業。これまでエジプト、シリアなど9カ国を現地会議で訪問した実績がある。招聘事業では高校訪問や鎌倉観光など積極的な文化交流をしている。両活動を通じて中東の学生とお互いの政治的・文化的な相互理解を図っている。