アムネスティ・インターナショナルは2月25日、2014年の世界の人権状況をまとめた年次報告書を発表した。「暴力や紛争に巻き込まれた数百万人にとって14年は最悪の1年。国際社会の対応は恥ずかしいほど無力だった」と報告書は批判。対応を根本から変える必要があるとして、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国に対し、大量虐殺が起きている場合は「拒否権」を放棄するよう呼びかけた。
■35カ国で過激派が人権侵害
この1年でとりわけ懸念が大きかったのは、「イスラム国」やボコハラム、アルシャバブなど過激派集団の台頭だ。アムネスティの調査によると、14年には少なくとも35カ国で過激派集団が人権侵害を犯した。過激派集団の影響力は国境を超えて広がりつつあり、支配下に置かれる市民は増えている。虐待や迫害、差別はますます悪化するとの見方が大勢だ。
問題は、過激派集団や一部の国家が市民に人権侵害を加えても、国連が機能せず、守れないことだ。各国の既得権や政治的な理由のために、常任理事国5カ国が拒否権を発動、協調した対応をとれなかったという現実は重い。
アムネスティは「常任5カ国が拒否権を放棄すれば、人命が重大な危機にあるとき、国連は市民を保護する行動をとりやすくなる。また加害者に対して、残虐行為を世界は黙認しないという強い意思を示すことができる」と主張する。
■武器貿易条約の批准を
人権状況を悪化させた別の要因に、武器の流入もある。アムネスティによれば、14年は、イラクやイスラエル、南スーダン、シリアに大量の武器が流入した。兵器の国際移転を規制する「武器貿易条約」は14年12月に発効したが、アムネスティは、米国、中国、カナダ、インド、イスラエル、ロシアなどに条約の批准を要請しているところだ。
アムネスティはまた、航空機搭載爆弾、迫撃砲、大砲、ロケット弾、弾道ミサイルなどを人口密集エリアへ使わないよう世界各国に求めている。数えきれないほどの市民が命を失ってきたからだ。「目標に届く精度が低く、被害が拡大する可能性の高い爆弾の使用を規制していれば、イスラエル、ガザ、ウクライナなどで失われた数千人の命は救えたかもしれない」(アムネスティ)
■過剰な取り締まりは逆効果
アムネスティはさらに、「安全保障上の脅威」を理由に、各国政府が過剰な抑圧策をとっていることも問題視。一例として、デモの厳しい取り締まり、テロ防止法の導入、不当で大規模な監視技術の利用などを挙げた。「過剰な取り締まりで事態が解決することはない。むしろ過激派が台頭する環境を作りだすだけ」とアムネスティは危惧する。
国際社会が紛争に対処できないため、世界ではいま、過去最悪の「難民危機」が起きている。14年6月時点で、シリアの300万人以上を筆頭に、アフガニスタン270万人、ソマリア110万人、スーダン67万人、南スーダン50万9000人、コンゴ民主共和国49万3000人、ミャンマー48万人、イラク42万6000人などが国外に逃れた。
全世界の難民問題は、対応策をいますぐとらない限り、今後悪化していくのは明らか。第二次世界大戦の悪夢を2度と繰り返さないようにと国連が設立されて70年、国際社会は再び、甚大な危機に瀕しているといえそうだ。