ナイジェリア北東部を拠点に活動するイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の脅威と隣り合わせで暮らすナイジェリアのキリスト教徒は「イスラム教徒=テロリスト」という考えを心にとどめて生きている。これは、米ニューヨーク州立大学に通うナイジェリア人留学生ピース・エマニュエルさん(18歳)の言葉だ。「日に日に増す非人道的な行為から自分や家族の命を守るために、キリスト教徒は、イスラム教徒を差別することを選ぶ」と話す。
■新大統領はイスラム教徒
ナイジェリアのキリスト教徒にとってイスラム教徒に対する差別的な感情は、ボコ・ハラムが町や村を焼き払ったり、女子生徒を拉致したりすることで強まっている。「ナイジェリアではどのイスラム教徒も信用できない。テロリストとつながっているかもしれないから」とエマニュエルさん。「テロリストと無縁かもしれないイスラム教徒を疑うことに抵抗はあるけれど、『万が一に備えた差別』は日常生活の一部となっている」と打ち明ける。
3月28日に実施された同国の大統領選挙では、ムハンマド・ブハリ元最高軍事評議会議長が現職のジョナサン大統領を破って当選した。ジョナサン前大統領がキリスト教徒だったのに対し、ブハリ新大統領はイスラム教徒。このため多くのキリスト教徒はナイジェリアの“イスラム化”を心配している。「ボコ・ハラム対策に期待を寄せるキリスト教徒がいる一方で、ボコ・ハラムをサポートするかもしれないと言う人もいる」とエマニュエルさんは懸念する。
■ハウサ族は雰囲気が怖い
アフリカ最大の人口(約1億7000万人)を抱えるナイジェリアには250以上の民族が暮らす。3大主要民族は北部のハウサ(人口の29%)、南西部のヨルバ(同21%)、南東部のイボ(同18%)。大雑把にいうとハウサ=イスラム、ヨルバ=プロテスタント、イボ=カトリックという構図だ。ヨルバ出身でプロテスタントのエマニュエルさんによると、ヨルバ、イボの人たちは、イスラム教徒が大半を占めるハウサに差別的な感情をもっているという。
「イスラム教徒=テロリスト」という固定観念をもたないキリスト教徒の間でも、ハウサに対して警戒心、恐怖心を抱く人は少なくない。ハウサは長年、貧困に直面してきたため、教育が受けられずにごみ収集の仕事をしたり、ホームレスになる人が多いからだ。そのため外見や雰囲気が怖いという。「イスラム教徒」と「ハウサ」が同義語として使われるキリスト教徒のコミュニティでは、ハウサのマイナスイメージがイスラム教徒への悪い印象につながっている。
■密告されたら攻撃される
エマニュエルさんは、ナイジェリア南西部のオスン州にあるキリスト教系の小・中・高校を卒業した。敬虔なプロテスタントである彼女の両親は、キリスト教の教えを娘に学ばせ、キリスト教徒として生きていくことを希望した。その影響を受け、エマニュエルさんは可能な限りイスラム教徒との交流を避け、モスクにも近づかない。また交流する時は、少しでも反感を買ったり、目を付けられたりすることのないようとてもフレンドリーに、もめごとの種になりやすい宗教の話は絶対にしないと心に決めている。
「イスラム教徒は宗教のためならキリスト教徒の家族や友だちを裏切る。これは、ボコ・ハラムが興隆する前からナイジェリアのキリスト教徒の間では代々伝えられてきたこと」とエマニュエルさんは語る。「イスラム教徒の友だちや知り合いは、他の宗教の信者ほど信頼できない。なぜなら過激派でないイスラム教徒の密告で、北部のキリスト教徒が過激派に攻撃されたというケースはとても多いから」