ミャンマー議会が「人口抑制保健法」案を審議している問題で、人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、この法律が成立すると、子どもをたくさん産む少数民族を政府当局が抑圧する手段になりうる、と廃案を求める声明を発表した。
人口抑制保健法は、「人種・宗教保護法」として2014年11月に議会に一括で上程された4法案のひとつ。最大のポイントは、出産間隔を最低36カ月と定め、産児制限を設けている点だ。これに反した場合、強制的に堕胎させることを政府に認めるなど、人権を無視した内容となっている。
HRWによると、この産児制限は、ミャンマー西部のラカイン州で暮らすロヒンギャ族(イスラム教徒)をターゲットにしているという。ロヒンギャはかねてから、仏教徒が9割を占めるミャンマーで、国籍すら付与されないほど激しい迫害を受け続けてきた。
ロヒンギャは2012年、民族浄化の標的として仏教徒(ラカイン族)から焼き討ちにあった。テインセイン大統領はこのとき、「(宗教対立の)唯一の解決策は、ロヒンギャを第三国か、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民キャンプに追放すること」と差別的なコメントを発表。ロヒンギャの海路での国外脱出に拍車をかけた。
12年の焼き討ち事件を受けてミャンマー政府がまとめた調査報告書は、ロヒンギャの人口が急増する事実を指摘したうえで、政府に対するラカインの要望について次のように記述している。
「ロヒンギャに家族計画と出産間隔調整プログラムを広めることで、ロヒンギャに支配されるのではないかというラカインの恐怖を和らげ、平和共存という目的を助ける(ラカイン州の州都シットウェはロヒンギャとラカインが混住している)」
人口抑制保健法を推進するのは、イスラム教徒を攻撃する意図をもつ活動家たちだ。とりわけ「人種宗教保護組織(マバタ)」は、同法の成立に100万人以上の賛同者の署名を集め、政府に圧力をかける。マバタは、イスラム教徒を「狂犬」呼ばわりするなど、ウルトラ民族主義的な僧侶らが参加することで知られる団体。
HRWは、人口抑制保健法が成立すれば、ロヒンギャを攻撃する手段となるのは明らかとの見方だ。「仏教徒のウルトラ民族主義者と人権侵害を繰り返す地元当局を、危険なまでに勢いづかせることになる」とHRWのブラッド・アダムス・アジア局長は懸念する。