ガザの子どもたちが負う「心の傷」は癒えない、国連とJICAが報告

満員の会場に向かって話すUNRWAの清田保健局長

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) と国際協力機構(JICA)は7月22日、パレスチナ自治区ガザ地区の現状を伝える報告会「ガザ~紛争から一年」を開催した。2014年のイスラエルとの戦闘から1年が経過したが、ガザ地区では子どもたちの精神面への影響が懸念されるほか、復興の兆しが見えず喪失感も漂うという。

15年5月に写真絵本「ガザ 戦争しかしらない子どもたち」(ポプラ社)を出版したUNRWAの清田明宏保健局長は、本の表紙にも登場する15歳の少女イマンさんについて紹介。イマンさん一家は、砲撃で外壁や天井が壊されて柱だけが残った家に住み、限られたブロック塀で壁を補修しながら生活を続けている。

清田局長によると、長女のイマンさんは勉強を続けているが、空爆直後は「ガザを出たい」ともらしたこともあったという。また、復興が進まないことで、イマンさんの父親は「ガザの現状が報道されても何も変わらない。子どもたちが教育を受けても仕事がなく、未来がない」と将来への不安を嘆くこともあった。実際に地中海を渡り欧州に逃げる若者も出ている。理由は、戦争が終わった後も社会や生活の復興がないからだ。

ガザ地区では06年以降4回の紛争が起こっており、10歳以上の子どもであればそのすべてを経験していることになる。学校でイスラエル軍の攻撃を受け、空爆を連想して学校に行きたがらなかったり、おねしょをしたり夜眠れない子どももいるという。清田局長は「こうした子どもたちへの最高の治療は平和であることだ」と強調した。

写真絵本「ガザ 戦争しかしらない子どもたち」の表紙。イマンさんと部屋から見える景色だ

写真絵本「ガザ 戦争しかしらない子どもたち」の表紙。イマンさんと部屋から見える景色だ

こうした中、ガザ地区と日本をつなぐ取り組みが行われている。ガザ地区では12年から毎年、東日本大震災のあった3月にたこ揚げを行い、被災地への共感とこれまでの支援への感謝を示している。一方、15年3月には岩手県釜石市でもガザ地区の子どもたちのためにたこが揚げられた。

UNRWAは現在、深刻な資金不足に陥っている。避難民の増加に加えて貧困が進み、UNRWAの支援に頼る人が増えているためだ。運営資金の大半はドナー(援助)国の任意の拠出金でまかなわれているが、15年は約1億100万ドル(約125億円)が不足。年末までの医療事業と一部の緊急支援をまかなう資金はあるものの、9月以降の教育事業に支障を来す可能性があるという。清田局長の本の印税はすべてUNRWAに寄付される。