フィリピンでは、犯罪の疑いがかけられた子どもは、市町村が運営する「収容センター」に留置される。引き取り手が現れるまで、こうした子どもたちは一日中、ペットショップの動物のように、狭い檻の中で過ごす。ところが驚くことに、収容センターのスタッフは「改善するお金が政府にないから仕方ない。この子どもたちにとっては外より良い環境」とまったく気に留めない。この問題意識の低さが、子どもたちを劣悪な環境に押しとどめ、改善するのに足かせとなっている。
■1つの檻に20人
マニラ首都圏カロオカン市のヤカップ・バタ収容センター。ホールドアップ(銃や刃物を使った強盗)やスリ、レイプ、違法薬物などの容疑で捕まった子ども約50人がここで生活している。留置期間は、犯罪の重さや年齢、裁判を起こされるかどうかなどによって変わるが、短くて2週間、長いと1年3カ月にも及ぶ。
収容センターの生活環境は驚くほど劣悪だ。コンクリート打ちっぱなしの倉庫のような場所を檻で10畳ずつに区切り、1つの檻に約20人が寝起きしている。入り口は南京錠をかけられている。鉄格子の窓が1つか2つ。子どもたちは一日中ずっとこの中に押し込まれ、午前中の1~2時間の非正規教育以外は何もすることがない。夜はコンクリートの床の上に雑魚寝する。
トイレは檻の中にある。コンクリートの壁で区切られた場所に便器と蛇口が1つずつあるだけ。扉も天井もないためにおいが周囲に漂う。そこで1日2回の水浴びもする。
有罪と決まったわけでもないのにこの悲惨な境遇‥‥。だがフィリピン人の見方は違った。収容センターの子どもを受け入れるシェルターを運営するNGOのボランティアスタッフのひとりは「以前よりだいぶマシになった。トイレのにおいは近くに行かないと感じないし、ハエもいない」と諦めたように話す。
収容センターのスタッフも「朝と夜、1日に2回シャワーを浴びられるから衛生的。ここにいれば教育も受けられる」と、むしろ環境が良いことを強調する。改善するつもりはあまりないようだ。
■親が見つからない
収容センターの子どもはいつまで留置されるのか。NGOスタッフの説明によれば、判決が出るまでか、シェルターを運営するNGOや親などの「引き取り手」が見つかるまでだ。
引き取られる順番は、留置期間が長い子どもからではない。「更生の意思がありそうな子ども」(NGOのスタッフ)が優先される。このため、NGOのスタッフが来ると、センターを抜け出したい子どもたちは、引き取ってもらおうと必死になって愛嬌をふりまく。例えは悪いが、ペットショップで飼い主が現れるのを待つ動物のようだ。
収容された子どもの親を見つけるのは至難の業。収容センターのスタッフは「子どもが留置されていることさえ親が知らないケースがほとんど。だから探しに来ることはまれ。親が見つからないことは少なくない」と話す。
「名前は何? どのくらいここにいるの? 家はどこ?」というNGOスタッフの簡単な質問にすら、泣きだしてしまう子どもたち。日々不安を感じ、収容センターでの経験はトラウマになる。子どもたちとこの国の将来を考えたとき、「予算がない」では済まされない問題が、2013年の国内総生産(GDP)成長率7.2%(世界銀行)と経済好調なフィリピンにはまだ残されている。