途上国の子どもを支援する認定NPO 法人「国際子ども権利センター(シーライツ)」の甲斐田万智子代表理事は8月30日に東京都内で開かれたネパール大地震救援活動・現地視察報告会で、ネパールのNGOが人身売買から子どもや女性を救出した件数は「4月の大地震後に2割増えた」と明らかにした。
甲斐田代表理事によると、シーライツが支援するネパールのNGO「マイティ・ネパール」が未然に防いだ人身売買の件数は、2015年1月から大地震が起きた4月25日までの約4カ月間で615件だったが、4月26日から8月15日では745件となった。マイティ・ネパールは震災以降、ネパールからインドへの国境付近にチェックポイントを2カ所増やし、計13カ所で監視している。ネパール西南部のマヘンドラナガル市にあるチェックポイントでは、地震前の4カ月間は33件だが、地震後の4カ月弱では79件防いだという。
チェックポイントでは、マイティ・ネパールの女性スタッフがバスに乗り込み、人身売買が疑われる子どもがいないかどうか確認する。見つけたら警察に通報し救出する。スタッフもサバイバー(元被害者)なので、被害に遭いそうな子どもを見抜く力があるという。
また大地震後、家や仕事、備蓄していた穀物を失ったことから、子どもや女性たちには「海外に出て働かないか」と家族が促すようになったという。無言の圧力もある。甲斐田代表理事は「(子どもや女性たちは)人身売買のブローカーに良い仕事があると声をかけられると、騙されて行ってしまう。家族も子どもたちも実態を知らない」と指摘した。
8月3日付の地元英字紙カトマンズポストによると、アラブ首長国連邦(UAE)に向かおうとしていた18~45歳のネパール人女性計28人がインド・ニューデリーのホテルで入国書類を偽造した疑いなどで逮捕された。UAEで仕事をもらえると騙されていたという。
ネパール政府による地震後のニーズ評価(PDNA)では、震災のために新たに貧困線以下の生活を強いられる人の数は少なくとも70万人。ネパールの人口の2.5~3.5%を占める。国連食糧農業機関(FAO)によると、主要な農村地域の農家の半数が震災で、コメや小麦、トウモロコシなどの備蓄のほとんどすべてを失ったという。
震災後の混乱に乗じて、人身売買のブローカーは被災者を狙っている。従来、ネパールの人身売買の移動手段は陸路のみだったが、最近は飛行機も加わった。「仲介業者は飛行機を使っても儲かるからだろう」と甲斐田代表理事は話す。
行き先もインドだけでなく、中東や中国にまで広がっている。国連のデータによると、年間1万~1万5000人の子どもや女性がネパールから売られ、性労働や強制労働を強いられている。ネパール中央統計局と国連児童基金(UNICEF)のデータでは、ネパール中央・極西部の5~14歳の子どもの44%が児童労働に従事している。