「家族の幸せが私の幸せなの」。フィリピン・セブ市の「庶民の台所」といわれるカルボンマーケットのすぐそばにある掘っ立て小屋に住む一家の母親であるレイアーさん(30歳)はこう言い切る。彼女にとって「家族の幸せ」とは、ひとつはコンクリートの家を建てること、もうひとつは4人の子どもを大学に行かせることだ。
家の広さは6畳ほど。壁は、2つに割った竹を並べただけ。天井はトタンを載せただけだ。雨が降れば、トタンの隙間から雨水が漏れる。こんな生活をレイアーさんは、夫(40歳)、4人の子ども(8カ月~9歳)、2人の弟の8人で送っている。
この近辺では2012年、大きな火事が起き、レイアーさん一家は家を失った。セブ市から1万ペソ(約2万5000円)の援助を受け、現在の家を建てた。
「コンクリートの家を作るのには約5万ペソ(約13万円)が必要」とレイアーさんは言う。夫は建設労働者だが、日当の相場は350ペソ(約890円)。家の中に置いてある空き缶に貯金しているが、「10ペソ(約25円)ずつしか貯められないの。今何ペソ貯まっているのかもわからない」。子どもが大きくなり手が空いたら、自分も仕事をして家計を助けたい、と話す。
もうひとつの夢は、子どもたちに高い教育を与えること。レイアーさん自身は高卒だ。先生になることを夢見たが、両親が亡くなったうえに、19歳の時に妊娠。自分の夢を諦めた。
自分は、大学に進学できなかったから苦労が絶えない。「だから子どもには、大学に行ってほしいの。大卒のほうが高い収入の仕事に就けるから」と子どもの成功を望む。コンクリートの家を作ることよりも、子どもたちを大学に行かせたい、と話す。
掘っ立て小屋は、8人が生活するには狭い。にもかかわらず、家族の幸せを願ってか、家の10分の1ほどのスペースに、サントニーニョ(幼少時代のイエス・キリスト)の像を置く。毎週日曜日には15分ぐらい歩き、サントニーニョ教会に家族で礼拝に行く。家族思いで良い母親だね、と振ると、「それが母親よ」とレイアーさんは胸を張った。