セブに移住したバジャウ族の暮らしが、同市の発展とともに変わり始めている。セブ市マンバリン地区の海に、バジャウ族が暮らす集落がある。
「海に潜るのは月に1度だけ。ここからボートに乗って水のきれいなところに行く」とモハンマドさん(22)。人生のほとんどを海の上で生活していたバジャウ族だったが、セブのバジャウ族が暮らす地域は、生活排水で海が汚染され、泳ぐ機会が減っている。海のど真ん中で生活することもなく、沿岸の海上に建てられた家で暮らす。モハンマドさんの仕事は真珠の販売だが、商品となる真珠は自分で獲らず、ミンダナオ島で暮らす兄から仕入れている。
セブのバジャウ族の中には都市で暮らす人も少なくない。伝統的な海での生活を捨て、都市で生活するバジャウ族は年々増え続ける。その主な理由は仕事で、モハンマドさんも家から1キロメートルほど離れたマーケットで真珠を売る。毎日午前中は6時から10時、午後は3時から7時まで販売し、1カ月に約2000ペソ(約5100円)の収入を得ている。
仕事以外の理由についてモハンマドさんは「海上の暮らしは台風の被害が甚大だ」と説明する。フィリピン沖で毎年発生する台風は、セブのバジャウ族の暮らしにも大きな影響を与えている。
バジャウ族は、暮らしの変化に伴って宗教に対する考えも寛容となった。かつてイスラム教を信仰していたが、今ではキリスト教の信者も珍しくなくない。集落の近くには教会が建ち、キリスト教徒のバジャウ族が礼拝に訪れる。
バジャウ族はもともとスールー海で生活する漂流民。漁業を生業とし、イスラム教を信仰していた。セブに移り住んだバジャウ族の価値観は、時代の流れとともに大きく変化しつつある。「今よりたくさんのお金を稼ぎ、新しい家に家族で暮らしたい」とモハンマドさんは夢を語った。