フィリピン人は計算が苦手だ。10~68歳のセブ市民30人を対象に路上で、「15+39」「100-63」「21×6」「220÷11」のような足し算、引き算、かけ算、割り算の4問を出題したところ、正解率は約60%と低いことがわかった。足し算とかけ算の正解率は約80%だった一方で、引き算と割り算は約40%にとどまった。
驚いたのは、計算に要した時間の長さだ。全問正解者(全体の約2割)を除くと、ほとんどの人が5~10分ほどかかった。引き算がとくに苦手なようで、足し算と掛け算を先にやる人が多かったのが印象的だ。
計算の速さと正確さがひときわ目立った人たちがいた。サリサリストア(フィリピンの駄菓子屋さんのようなもの。スナック菓子や飲み物を売っている)の店員だ。セブ大学に通いながら、サリサリストアの手伝いをする男性(22歳)は1分で全問正解。また、50歳の、別のサリサリストアの店員である女性も軽く計算問題を解いてみせた。「私は、小学校と高校に1年(当時のフィリピンの教育制度は中学校はなかった)行っただけよ」とはにかんだ。
興味深いことは、一般に高学歴といわれる人たちでも、簡単な計算問題を間違えることだ。大学1年で中退したというコンビニの店員(26歳、女性)は、すべての問題をレジで計算しようとさえした。計算能力と学歴に大きな関連性はなさそうだ。
サリサリストアとコンビニは両方ともお金を扱う。だが両者になぜこんな違いが出たのか。それは、コンビニではレジを使うのに対し、サリサリストアは暗算でおつりを計算する。フィリピンでは店頭に女性が立っていることが多いためか、男性よりも女性の方がはるかに計算が速く、また正確だった。これは、男性よりも女性がよく働く傾向が強いフィリピンの特徴かもしれない。
フィリピン人の数学の学力の低さは国際的なテストでも一目瞭然だ。46カ国・地域を対象とする 2003年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)によれば、フィリピンは下から3番目の44位だった。スコアは、平均点の495点を大幅に下回る358点。ちなみに日本は565点で3位だ。
セブで取材をしていても、数字的な矛盾によく直面する。マザーテレサ孤児院で、スタッフの夫婦をインタビューしていたところ、何年に結婚したかと、そのときの年齢といまの年齢が矛盾していた。計算が合わないことを伝えても、2人は結局、肩をすくめて「わからないわ」と答えた。
計算が大の苦手なフィリピン人。セブ市内のホテルで働く男性は「フィリピン人はもっと数学を勉強しなければならい」と危機感を持つ。フィリピン人の計算能力の向上に日本の学習塾が事業展開するチャンスが潜んでいるかもしれない。