ミャンマーでは葬式の際、「うちわ」を参列者に配るといったユニークな伝統がある。うちわの表には、故人の名前、死亡日時、家の住所などが印刷されている。この“葬式うちわ”にはミャンマーの意外な文化が隠されていた。
■40度の灼熱地獄
ミャンマーの葬式は1週間程度。3~5日目に遺体を火葬し、最終日にはセレモニーが開かれる。セレモニーでは、参列者が遺族にお金を寄付したり、遺族が参列者に伝統的な麺料理モヒンガーなどをふるまったりする。
火葬の日、参列者は、正午を目途に遺体を家から火葬場へ運ぶ。ヤンゴンの年間最高平均気温は40度。灼熱の太陽のもと、人々は火葬場に向かわなければならない。そのため遺族は、移動中に少しでも参列者が涼しくなるようにとうちわを配る。
葬式うちわはもともと、ヤシの葉を編み込んだものを使っていた。だが今では、業者に頼み、プラスチック製のうちわを用意するのが一般的だ。色、サイズ、装飾などを自由に選ぶことができる。1枚つくるのに、約100~200チャット(約10~20円)の費用がかかる。
うちわの他にも、熱中症対策としてペットボトルの飲料水や、汗をかいて帰宅する参列者のために小さなパックに入ったシャンプーを配る場合もある。いずれの品も実用的だ。
■枚数が多いほど高徳
葬式うちわの大きな特徴は、故人の情報をうちわに記載することだ。ヤンゴン・ダラ地区に暮らすサン・ミさん(62歳)が亡くなった際、ミャンマー語で「サン・ミ」「享年 62歳」「2015年9月17日木曜日12時30分に他界した」「最終日のセレモニーは9月23日に開く」といった情報や家の住所がうちわに書かれていた。
葬式うちわの効果について、レストラン勤務のミャンマー人は「うちわを見ることで、故人を偲びにもう一度来るきっかけになる。頻繁に使ううちわは、亡くなった人のことをいつでも思い出すことができる」と語る。
ヤンゴン在住のイェー・ナイさん(21歳)は「僕の親友の葬式には、多くのうちわを用意してもらいたい。良い人生を送った人には、多くの人が会いに来るから。亡くなった人がどれだけ徳を積んだのか、うちわの枚数をみればすぐに分かる」と話す。
上座部仏教を信仰し、前世での行いで来世が決まると考えるミャンマー人にとって、うちわの数は、どれだけ徳を積んだ人間なのかを測るひとつの指標になっている。