「女性の社会進出」と「高い出生率」を実現するトンガ! 育休なくても関係なし?

赤ん坊の面倒をみるきょうだい

南太平洋のトンガは「女性の社会進出」と「高い出生率」を両立する世界でも珍しい国だ。労働者の4割は女性(2006年)、粗出生率(人口1000人に対する出生数)は25(13年)で、女性労働者の割合がほぼ同じ日本の粗出生率8.4(13年)を大きく上回る。この理由を探ってみたところ、「強い親族関係」と「子どもにやさしい職場」の2つが浮き彫りとなった。

「妊娠して、仕事を辞める女性はほとんどいない」。こう話すのは、トンガ保健省健康推進部で働くスリアナ・ツイツポウさん(42歳)だ。スリアナさんは15年3月、7人目となる子どもを生んだ。5月までの3カ月、産休をとった後、6月に職場へ復帰。「いまは子どもの面倒は家族がみてくれている。だから心配ない」と笑顔を弾けさせる。

トンガで法的に認められる産休期間は、省庁で3カ月、それ以外はたった1カ月だ。日本のような育休の制度もない。では赤ん坊の面倒は誰がみるのか。保育園を利用する家庭も増えてはいるが、祖父母や働いていないきょうだいが世話をする習慣が根強く残っている。「3カ月の産休期間が短いとは思わない」(スリアナさん)。トンガでは産休期間が短いゆえに、代わりのスタッフを雇わない。これが職場復帰のハードルを下げることにもつながる。

子育てに対する職場の理解も深い。保健省健康推進部がある建物ではほぼ毎日、スタッフの誰かの子どもが部屋の中を走り回っていたり、昼寝したりしている。妻が病気で寝込んでしまった男性職員や、子どもの体調が悪いからそばで様子をみたい女性職員が子どもを職場に連れてくるのだ。

トンガでも実は、建前上は子どもを職場に連れてきてはいけないという。だが文句を言う人は誰もいない。保健省健康推進部メディアユニットで働く40代の男性職員は「トンガ人にとって大切なのは『家族』と『食べること』。仕事は二の次。だからトンガはいつまでたっても途上国なのかもしれない。でもほとんどのトンガ人にとっては子どもと過ごす時間が一番幸せ。何よりも優先しなければいけないことなんだ」と力説する。

出生率が低下する要因は一般的に、「教育水準の向上」「義務教育の普及」「識字率の上昇」「市場経済への移行」「家族計画の導入」「死亡率の低下」とされる。ところがこのロジックはトンガには当てはまらない。トンガは義務教育の就学率、識字率はともにほぼ100%だが、10万人の全人口の3分の1をゼロ~14歳の子どもが占める。

国民の3割が「貧困」とされるトンガ。しかし飢餓状態に陥る人がほとんどいないだけでなく、国のいたるところで、子どもの笑い声とそれを見守る大人の笑顔があふれている。保健省に勤務するトンガ人の男性は言う。「子どもの多い場所には笑顔が増えるだろ」