フィリピンでは3割が小学校を卒業できない、NGOアクセスは197人に奨学金支給

アクセスが供与する奨学金プログラムの一環である、保護者が作った給食を食べるフィリピンの子どもたち

フィリピンの子どもの10人に3人は小学校を卒業できない――。その理由は、第一に、家庭の経済事情で進級できないこと。第二に、年間の平均成績が合格ラインである75点に足りないと中退せざるをえないことがある。京都に本部を置く国際協力NGOアクセスは2009年から、フィリピン・ケソン州アラバット島のペレーズで、中退リスクを抱える子ども向けに奨学金を支給し始めた。15年10月時点で197人の子どもを支援する。

アクセスの奨学金プログラムでは、フィリピンの子ども1人の就学費用として年間1万5000円を日本のサポーターがアクセスに寄付する。このお金を使ってアクセスは小学校の制服、ノートやペンなどの学用品を買い、子どもたちに届ける。これ以外にも、子どもの保護者が学校給食を週に3回作って出したり、アクセスフィリピンの現地スタッフと地域ボランティアが毎週土曜日、小学1~3年生全員と4~6年生の希望者を対象に補習授業を行ったりする。

奨学金プログラムでアクセスがとりわけ重視するのは、子どもと保護者のエンパワーメント(個人が自力で問題を解決できる技術・能力を得ること)だ。保護者会・奨学生会を毎月開き、子どもの成長を促す接し方から、子どもを虐待から守るための法律に至るまでを学ぶ。100人前後の保護者が毎回参加するという。

アクセスの野田沙良事務局長は「ひとりでも多くの子どもが小学校を卒業できるように、との思いで奨学金活動を続けてきた。年に数回企画するフィリピンへのスタディーツアーに参加して、それがきっかけでサポーターになってくれる人も多い。ほとんどのサポーターは、子どもが卒業するまでの6年間支援してくれる」と説明する。

ただ現実は、学校を辞めそうになる子どもも少なくない。このためアクセスは、子どものやる気を継続させられるよう、子どもとサポーターの交流も仲介している。サポーターが支援する子どもからは定期的に、成績表や手紙がサポーターのもとに届く。小学6年生の女子児童が書いた手紙には「あなたのしてくださったすべてに感謝しています」という感謝の言葉とともに、「日本でもバドミントンをしますか。もしペレーズに来る機会があるなら、一緒にしましょう」とも。

「フィリピンの子どもからの手紙を冷蔵庫のドアに貼り、毎日元気をもらっている、と話してくれるサポーターもいる。別のサポーターは、(フィリピンの子どもを)もうひとりの自分の子どものようだと喜んでくれる。お年玉を出し合って1人分の奨学金を出してくれている3人きょうだいもいる」(野田事務局長)

フィリピンの子どもたちが英語で書いた手紙を日本語に訳すのは、日本人の翻訳ボランティアだ。サポーターが書く日本の手紙も英語にする。翻訳以外にも、開発教育チームやフェアトレード事業部などで総勢およそ80人のボランティアがアクセスの活動を支える。

アクセスは、この奨学金プログラムを拡大させる方針だ。14年度に支援できたのは161人。15年度は200人に増やすことを目指す。活動を支えるボランティアも随時募集している。アクセスの理念は「誰もが地球市民としてよりよい世界づくりに参加し活動を創る」。野田事務局長は「貧困はひとりでは解決できない。だからこそアクセスに集った仲間たちで協力して解決していきたい」と話す。