中央アジアのキルギスで、イスラム武装勢力にリクルートされる若者が現れ始めた――。これは、国連児童基金(UNICEF)の杢尾雪絵キルギス事務所代表が10月30日に都内で開かれた活動報告会で語ったもの。「キルギスでは年々、中東のイスラム色が濃くなっている。経済や教育、民族対立などさまざまな要因がそこには絡み合っている」と語った。
イスラム武装勢力に入る若者が増える最大の要因は、大きな産業がないことだ。キルギスの1人当たり国内総生産(GDP)は1299ドル(約16万円、2014年)で、パキスタンと同じぐらい。GDPの約3割を海外出稼ぎ労働者からの送金に依存しているのが特徴だ。学校を卒業しても、富裕層やコネをもつ者以外は国内で就職することは厳しい。
就職難に、「やりがいのあることがしたい」「自分の力を試したい」といった思いが加わって、若者はイスラム武装勢力に入隊する。杢尾氏は「正確な数字は出ていないが、一部の調査では200~300人といわれる」と指摘する。
UNICEFは若者の武装化を阻止するために、キルギスの情勢を安定させたい考えだ。経済や教育、他民族理解など複数の分野を支援する「平和構築事業」を手がける。主なターゲットは青少年と幼い子どもたちだ。
教育分野では「青少年センター」を設置する。このセンターでは、コンピュータや英語、ロシア語などのスキルのほか、平和や他民族との共存をどうやって実現できるかなどについても学ぶ。「若いときから教養を身につけ、平和を考えることで、社会で活躍できる人材を育てられる。ひいては国の情勢安定にもつながる」と杢尾氏は効果を強調する。
またUNICEFはかねて、平和構築事業の一環として、コミュニティを基盤とする幼稚園を設置してきた。物件探しや家具作りなどを地域住民と一緒に進めることで、その地域が一体となる。すでに64の幼稚園を立ち上げた。地域の安定につなげる狙いがある。
キルギスの情勢を悪化させる潜在的な要因のひとつになっているのが民族対立だ。キルギスは、人口の7割を占めるキルギス人のほか、ウズベク人、カザフ人などが暮らす民族複合国家。民族対立が起こることも少なくない。2010年にはキルギス人とウズベク人の間で大きな暴動が発生。470人が死亡、40万人が避難を余儀なくされた。
平和構築事業には、民族対立を防ぎ、政情安定を目的とする「複合言語教育」がある。少数民族も、国語であるキルギス語、公用語であるロシア語を学び、加えて自らの言語も維持できるプログラムだ。それぞれの少数民族がアイデンティティを保ち、ともに学ぶことで異なる民族同士の対話が生まれることを目指す。
キルギスは、実は、中央アジアで随一の民主国家だ。独裁体制を強めるウズベキスタンやタジキスタンなどの周辺諸国とは対照的。中央アジアの「希望の星」と称される。