サブサハラで糖尿病の脅威が拡大、11月14日は「世界糖尿病デー」

マラリアやエイズなどの感染症問題が依然として深刻なサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南の地域、以下サブサハラ)。いまこの地域で、エイズでもマラリアでもない、ある非感染性の疾患が新たな脅威となっている。全世界での患者数が3億8700万人、2014年1年間で490万人、7秒に1人が命を落としている病気――糖尿病だ。

■人口の5%・2100万人が罹患

国際糖尿病基金(IDF)の「糖尿病アトラス」の最新統計によると、サブサハラの糖尿病患者数は、14年の時点で2100万人と推定され、人口の約5%を占めた。2000年の統計では人口の1%に過ぎなかったので、人口比としては14年間でなんと5倍に増加。さらに、このまま糖尿病に対して適切な対策が講じられない場合、2035年には患者数が14年の約2倍、およそ4200万人になると見込まれ、この増加率は世界のどの地域よりも高い。

糖尿病患者が増えた原因は、急速な都市化(デスクワークの増加による運動不足など)、食生活の偏り、インスリンなどの薬の不足、治療費の高さなどが挙げられるが、さらに糖尿病を患っていること自体の発見の遅れも大きい。IDFによると、糖尿病であるにもかかわらず、糖尿病だと診断されていない人、または病気にかかっていることに気づいていなかった人の割合が、有病者数のうち62%と、世界のどの地域よりも高い。

その理由は、医療従事者や患者自身の糖尿病に対する知識不足や、検査環境が整っていないことがある。例えば、同地域での糖尿病に関連する医療費の支出(14年)は、年間で40億ドル(約4800億円)と他の地域に比べて最も少ない。そのため、糖尿病検査や対策、そして知識普及は不十分。また、国際糖尿病支援基金(東京都港区)によると、ケニアでは、先天的に発症する1型糖尿病を持つ子どものほとんどが糖尿病と診断されずに原因不明として扱われ、そのまま死亡するケースが多いそうだ。

■エイズ偏重主義に責任あり

診断の遅れの影響は非常に深刻だ。なぜなら糖尿病は適切に治療しなければ、心疾患、腎臓病、失明や、末端の血行や神経の障害により足に壊疽が起きるなど、重篤な合併症を招く。合併症は適切な治療を続ければ発症を防ぐことができるが、糖尿病だと診断されない人が多いサブサハラの患者は、合併症を防ぐための貴重な機会を逃していることになる。

糖尿病対策の不整備の背景には、サブサハラではこれまで、マラリアやエイズなどの感染症対策に重点が置かれたことがある。国際機関などからの援助も感染症分野に集中し、糖尿病を含むNCD(非感染性疾患)にはほとんど注意が向けられなかった。実際、2015年までに達成すべき「ミレニアム開発目標(MDGs)」には、マラリアやエイズなどの感染症のまん延阻止は目標に掲げられていたが、糖尿病を含むNCDへの言及はなかった。これを、IDFは、MDGsの重大な欠陥だったと指摘している。

■もはや先進国の病気ではない

糖尿病に対してさまざまな課題を抱えるサブサハラだが、脅威に対抗するための新しい取り組みが始まっている。

ケニアでは、医療従事者の知識不足を補うため、世界糖尿病財団(WDF)がケニア厚生省と協力し、トレーニングプロジェクトなどを実施。また、カメルーンでは、伝統医療の治療者に対して、糖尿病の知識普及や、治療者が地域住民に啓発教育をする研修が、パイロット・スタディとして始められている。伝統医療の治療者が不適切な診断を下す危険性がある、との指摘もあるが、伝統治療者らは、貧しい農村地帯に人的ネットワークを持ち、地元の実情を熟知しているので、彼らに適切な知識とトレーニングを与えることで、より効果があがると期待されている。

かつて先進国の富裕層の病気と考えられていた糖尿病だが、現在、全世界の糖尿病患者の約80%が中・低所得国に暮らす。この糖尿病の世界的拡大を受け、治療に欠かせないインシュリンの発見者バンディング博士の誕生日である11月14日が、2007年、「世界糖尿病デー」という名称で正式な国際デーとなった。当日は世界各地で建物がブルーでライトアップされる。