「セネガルの旅行ガイドブックを日本語で作りたい」。こう意欲を燃やすのは、セネガル在住のビジネスマン、山田一雅さん(28歳)だ。山田さんは2014年9月にセネガルへ渡り、日本企業のアフリカ進出支援やホームステイ先の紹介などを手がける会社「アフリカ商会」を首都ダカールで立ち上げた。このほどキックオフさせた「旅行ガイドブックを制作してセネガルを訪れる日本人を増やし、同国の貧困削減につなげるプロジェクト」について話を聞いた。
■「地球の歩き方」もない
――セネガルの旅行ガイドブックを制作しようと思い付いたのはなぜか。
「セネガルは資源をもたない西アフリカの小国(人口1400万人)。1人当たり国内総生産(GDP)は、日本の30分の1以下の約1000ドル(約12万円)しかない。国民の半数が貧困層だ。アフリカの中でも1人当たりGDPは30位と貧しい国のひとつに入る。
そんなこの国で一大産業になっているのが観光だ。タクシー運転手など、観光客が落とすお金の恩恵を受ける仕事を含めれば、観光業に従事しているセネガル人は30万人にのぼる。これは国全体の雇用者数の10%程度。雇用者の家族まで数えると、観光業に頼って暮らすセネガル人は数百万人といわれる。
そこで私は、日本から観光客をなんとか呼び込めないか、と考えた。そのためには旅行ガイドブックが必要。『旅の力』でセネガルを豊かにしたい」
――セネガルを紹介する旅行ガイドブックはないのか。
「日本語のものはない。地球の歩き方シリーズ(ダイヤモンド・ビッグ社)にも、東アフリカや南アフリカはあるが、西アフリカはない。旅行ガイドブックがないから、セネガルのことをほとんどの日本人は知らない。
多くの日本人は、アフリカはどの国も同じだと思っている。イメージも『危険』『エボラ熱』といったふうに一括りにされている。だが現実は違う。
2014年に流行したエボラ熱の影響で、セネガルの観光業は大打撃を受けている。観光業を復活させるためにも、旅行ガイドブックをいま作る意義は小さくない」
■「観光説明会」を日本で開く
――どんな旅行ガイドブックにするのか。
「コンセプトは『旅行者にもビジネスパーソンにも役立つ一冊』。150ページぐらいの電子書籍を考えている。タイトルは仮だが『アフリカ旅行ガイドブック・セネガル』。
旅行者をひきつけるのは、セネガルが誇る7つの世界遺産と、ピンク色の塩湖ラック・ローズだろう。ラック・ローズは死海よりも塩分濃度が高い。またプティットコットにあるビーチリゾートも欧米人の間で人気が高い。
ビジネスパーソン向けの内容では、セネガルの商習慣や法人設立手続きなどの情報を掲載する。食品や産業用機械などの展示会の概要や開催時期も載せたい」
――観光スポットとビジネス情報を盛り込んだ旅行ガイドブックを作るだけで日本からの観光客が増えると思うか。
「現在はほぼないセネガルの情報が『存在する』だけでも有意義だ。ただセネガルの魅力を多くの人に伝えるためには積極的な宣伝が欠かせない。その資金をクラウドファンディングのレディーフォーで11月29日まで募っているところだ。
旅行ガイドブックの制作のみの費用は82万5000円ぐらいだが、宣伝費を含めると200万円ぐらいが必要(レディーフォーへの手数料込み)。支援が集まるほど、セネガル観光説明会を日本で開けるようになる。日本人観光客がその結果増えれば、セネガルの貧困削減につながる」
■「おもてなし」が魅力
――旅行ガイドブックの制作はどう進めていくのか。
「企画、取材、執筆、校正、レイアウト、宣伝、販売などを、基本的にすべて私自身がやる。協力してくれる人がいれば連絡がほしい。企業向けの広告枠も用意している。
12月7日ごろから、セネガル各地を取材し始め、4月上旬に取材を完了。4月下旬~5月下旬に旅行ガイドブックを完成させ、アマゾンなどで販売する予定だ。値段は未定だが、2000~3000円を想定している」
――山田さんにとってセネガルの魅力とは。
「私にとってセネガルの最大の魅力は『テランガ』。現地のウォロフ語で『おもてなし』という意味だ。旅行ガイドブックの中でも、テランガの精神をコラムとして書き、前面にPRしていきたい。
セネガルに初めて来た2014年9月、私もテランガに触れたことで、この国が大好きになった。住居が見つからずに困っていたとき、インターネットカフェでたまたま出会ったセネガル人に相談したところ、その翌日から数カ月、彼の家に泊めさせてもらった経験がある。
私以外にも、セネガル在住者や旅行経験者からテランガ体験談を聞き、十数ページにわたって掲載する」
――セネガルには毎年、何人ぐらいの日本人が来るのか。
「日本の観光白書にも、セネガル政府のデータにも、日本人のセネガル渡航者数は出ていない。それほど旅行者が少ない状態。セネガルにやって来る人の多くは国際協力機構(JICA)や外務省の関係者。旅行ガイドブックを作ることで、この状況を変えたい。
日本からの旅行客が増えれば、ホテルや観光ガイドはもとより、レストランや土産屋にとってもプラスになる。私はこれを『旅行ガイドブック制作による10万人の貧困削減プロジェクト』と名付けている」