南インドのタミルナードゥ州カルール県で、酪農場で飼育する乳牛を、ホルスタインをはじめとする「交雑種・外来種」から、タルパルカルやヴェチュアといったインドの「伝統種」に戻す動きがある。インドの英字紙「ザ・ヒンドゥ」が10月11日付で報じた。タミルナードゥ州の牛乳生産量をみると、交雑種が伝統種の7倍以上。同州はインドの中でも伝統種の比率が最も低い州となっている。
こうした現状を変えようと、カルール県には、伝統種を積極的に導入し、交雑種からの転換を推し進めている畜産センターがある。経営者のガネサン氏は「病気に強く、また交雑種のようにたくさんの乳を出す伝統種を育てたい」と意気込む。
ガネサン氏によれば、交雑種の乳牛は伝統種の約2倍の量の乳を出す。インドの酪農産業を劇的に発展させた1970年代の「白の革命」のプロセスでは、大量の交雑種が導入された。この結果、インド全土の牛乳生産量が増加。宗教的理由から菜食主義者が多いインド人の栄養水準を向上させるといった功績を残した。
しかしその一方で、交雑種の飼育はコストがかかるという欠点がある。交雑種の飼料代は1頭当たり1日約200ルピー(約370円)。これは伝統種の5~10ルピー(9~18円)と比べて20~40倍だ。
交雑種はまた、その土地の気候になじめないことも少なくない。このため伝染病にかかりやすいという。健康管理は不可欠で、医療費はかさむ。こうした事情から貧しい酪農家は交雑種の導入が難しく、酪農家の間では貧富の格差は広がっている。
南インドの気候でも健康に育ち、たくさんの牛乳を出す伝統種の開発は格好の貧困対策になる。ガネサン氏はこの実現に自信をのぞかせるが、それには理由がある。
ガネサン氏は20年前、乳牛の品種改良に携わっていた。70~80頭を交配したという。ある時、インド伝統種のウシ2頭を飼い、それぞれから1日10リットルの牛乳をとることに成功した。これをきっかけに伝統種を中心とする酪農に転換した。1日10リットルという数字は、インドの1頭当たり平均牛乳生産量2.5リットルの4倍だ。
伝統種復活の動きは、実はこの畜産センターに限った話ではない。同じく南インドのカルナータカ州のガウシャラ(インドのウシ保護施設)では近年、インド伝統種の牛乳から得る物質を使って、薬や歯磨き粉、殺虫剤を作る研究を進めている。実現すれば、薬品や生活用品の観点からも、伝統種の牛乳に対する需要が生まれる。ヒンズー教でウシを神聖視するウシの国インドでの伝統種復活は、いろんな意味で大きな意義をもつといえそうだ。