国連人口基金(UNFPA)は12月3日、「2015年版世界人口白書」を発表し、このなかで、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖の健康)への支援が不十分だと警鐘を鳴らした。専門技術者が立ち会う出産(2006~14年)の比率は世界全体で71%にとどまり、とりわけ西・中部アフリカは48%といまだに低いことが浮き彫りとなった。
専門技術者が立ち会う出産の比率が特に低かったのはエチオピア(16%)と南スーダン(19%)だ。30%を切ったのは、チャド、スーダン(ともに23%)、ニジェール(29%)なども含め6カ国。東ティモール(29%)以外はすべてアフリカだった。対照的に専門技術者の立ち会い率100%だったのは日本やフィンランド、韓国、タイなど多数。
報告書は、15~19歳の少女1000人当たりの出生数(1999~2014年)も掲載している。最も多かったのは中央アフリカ共和国の229人。以下、ニジェール(210人)、チャド(203人)、アンゴラ(191人)、マリ(178人)の順。上位20カ国をアフリカ諸国が独占した。それ以外の地域では南米のエクアドル(100人)とベネズエラ(101人)が多い。日本はわずか4人だ。
報告書によれば、死亡する妊産婦の6割は、紛争や自然災害に起因する医療環境の悪さが関係しているという。1日に507 人が妊娠合併症や不安定な状況での出産が原因で命を落としている。少女の出産は命取りとなるリスクが高い。
2015年時点で人道的援助を必要とする人は世界に1億人以上いる。この4分の1が、出産可能な15~49歳の少女・女性だ。報告書は、紛争や自然災害によって「HIVを含む性感染症」「意図しない、望まない妊娠」「妊産婦死亡と疾患」「性とジェンダーに基づく暴力」などのリスクが高まっている、と懸念する。
専門技術者が立ち会う下での出産の少なさ、少女の出生数の多さは「死のリスク」の問題だけにとどまらない。女子の就学率の低さにもつながる。
女子の初等教育(小学校)就学率(1999~2014年)をみると、ワースト5は南スーダン(34%)、コンゴ民主共和国(35%)、リベリア(37%)、スーダン(56%)、ニジェール(58%)。ワースト20にまで広げても、シリア(11位、65%)とパキスタン(12位、67%)を除き、すべてアフリカ諸国だ。地域別では西・中部アフリカが69%で最低。
中等教育(中学・高校)の女子就学率も同じ傾向。目立って低いのがチャドの5%。これに続くのがギニアビサウ(6%)、ニジェール、中央アフリカ(ともに10%)、エチオピア(11%)。18位のソロモン諸島(29%)以外、ワースト20はアフリカ諸国ばかり。地域別では西・中部アフリカと東・南アフリカがそれぞれ31%、33%となっている。
報告書はまた、各国の出生率(2010~15年の平均)のデータも載せている。断トツ1位だったのはニジェールの7.6%。上位20カ国のうち、アフリカ以外は東ティモール(8位、5.9%)とアフガニスタン(18位、5.1%)のみ。アフリカで人口爆発が起きている現状が鮮明に出る結果となった。高齢化が進む日本はマイナス0.1%だ。
ユニークなのは、0~14歳の子どもが全人口に占める割合(2015年)。ニジェールの51%を筆頭に、アフリカ諸国は軒並み40%を超える。香港の12%、日本やドイツの13%と比べると、国民の若さは際立つ。