スマートフォンには、児童労働など不当な労働力を使って採掘したコバルトが使われている――。国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルは1月19日、コバルトが鉱山で掘り出され、製品として市場に出るまでのサプライチェーンの実態を明らかにする報告書を発表した。中部アフリカのコンゴ民主共和国にあるコバルト鉱山では、7歳の子どもから大人までが苛酷な労働環境のもと酷使されているという。
■コバルトを牛耳る中国企業
コバルトは、スマートフォンなどに搭載するリチウムイオン電池に使われる原料。世界のコバルトの5割以上がコンゴ民主共和国でとれる。その4割以上を買い付けているのが、中国の大手鉱山会社、浙江華友コバルトの子会社コンゴ国際鉱業(CDM)だ。
報告書によると、CDMは、精製処理をしたコバルト原料を中国と韓国のリチウムイオン電池部材メーカー3社に売る。3社の仕入れ額は2013年、合計で9000万ドル(約107億円)にのぼったという。
部材メーカーの3社は原料から電極を作り、バッテリーメーカーに販売する。バッテリーメーカーが生産したリチウムイオン電池は最終的に、アップル、マイクロソフト、サムソン、ソニー、ダイムラー、フォルクスワーゲンなどの多国籍企業に供給される。
アムネスティは、バッテリーメーカーの顧客16社に対し、浙江華友コバルトとの取引について問い合わせた。その結果、「取引がある」と回答したのは1社のみ。「取引がない」は5社、「調査中」は6社、「わからない」は4社、「コンゴ民主共和国原産のコバルトは使用していない」は2社だった。しかし「取引がない」と答えた5社の名前は、浙江華友コバルトの資料の顧客リストに載っている。
また、コバルトの原産地をどう調べるのかとの質問に対し、明確に回答できた企業はゼロだった。
■鉱石の袋を運んで日当120円
報告書は、コバルトをCDMが調達する地域の鉱山労働者の健康被害や事故についても詳述している。2014年9月~2015年12月の1年4カ月に、少なくとも80人がコンゴ民主共和国南部の鉱山で命を落とした。事故の多くは公表されず、遺体はがれきの下に埋もれたまま。このため正確な死者数はわからないのが実情だ。
ほとんどの鉱山労働者は、皮膚や肺を守る手袋や作業着、マスクを着用せずにコバルトを掘っている。子どもたちは重い荷物を担ぎ、1日12時間働く。日当は1~2ドル(120~240円)だ。国連児童基金(UNICEF)の2014年の調べでは、南部の鉱山での児童労働の数は約4万人。その多くがコバルトを採掘していた。
コバルトの取引を規制する法律や規定は世界にない。米国の紛争鉱物規則は、コンゴ民主共和国で産出される金、タンタル、スズ、タングステンを対象とするが、コバルトは規制外だ。
こうした現状を懸念してアムネスティは、リチウムイオン電池を使用する多国籍企業に対し、人権の視点から調査を実施し、児童労働や労働環境に問題ある状況でコバルトが採掘されていないかどうかを明らかにすべき、と主張する。また中国政府には、海外で展開する中国系企業が自社のサプライチェーンを調べ、操業中に発生する人権侵害に対処することを義務付けるよう求めている。
各国の街中で見かけるおしゃれなスマートフォンのショップ。「そうしたイメージから、鉱石の入った袋を運ぶことを強いられる子どもたちや、有害の粉じんが舞う窮屈な坑道で長時間の採掘作業を強いられる人たちの姿は、想像できない」とアムネスティは指摘する。