冷蔵庫を使ったBOP(年間所得が3000ドル以下の低所得者層=Base of the pyramid)ビジネスがある。ここは、ミャンマー・ヤンゴン市内の最北端、シュエピタ地区。中年女性ダ・テ・ラ・カインさんが娘や孫たちと暮らすトタン屋根の小さな家の真ん中には中国製の「小型の赤い冷蔵庫」が置かれている。
「この冷蔵庫は18万5000チャット(約1万8500円)で去年(2015年)買った。全額自腹よ」
冷蔵庫の中には、1リットルのペットボトルに入った冷水が数本入っている。これを1本100チャット(約10円)で売る。この冷たい水の主な買い手は、路上で飲み物を売る商人たちだ。
ダ・テ・ラ・カインさんによると、水の仕入れ値は20リットル入りのタンクで350チャット(約35円)。週に1度、トラックが水を売りにくるという。それを1リットルのペットボトルに小分けし、売っている。1リットルのペットボトルは、近くの飲食店から、使用済みのペットボトルを1本あたり15チャット(1.5円)で買う。
販売する冷水1本あたりのコストを計算すると33チャット(約3.3円)。それを100チャットで売るということは1本あたり67チャット(約6.7円)の利益を得ることを意味する。この水転売ビジネスは貧困地区の人々が簡単に営め、多少の利益を得られるビジネスだ。
「水は、トラックの水売りが家に来てくれるので、家にずっといてもできるビジネス。他の製品に比べれば仕入れが楽。アイスクリームなどを売るより手っ取り早く、利益になりやすい」(ダ・テ・ラ・カインさん)
ちなみに冷蔵の中には水のほか、財布や時計など貴重品が保管されていた。貧困層にとって冷蔵庫は、食べ物を冷やす、ビジネスのツールだけでなく、金庫の役割も果たしているといえるかもしれない。
シュエピタ地区は貧しい人が住むエリアのひとつ。ダ・テ・ラ・カインさんはこれまでに何度か、マイクロファイナンス(小口金融)でお金を借りた経験をもつ。ただマイクロファイナンスを使って「資産」を購入することは禁じられているため、冷蔵庫は貯金して買った。