「観光収入」と「民族の誇り」で揺れるミャンマーの首長族、写真撮るより商品買って!

パダウン族のポウさん(右)。平日はインレー湖の土産物屋ではた織りと観光客との写真撮影で生活費を稼ぐ。その間の寝泊りも土産物屋。一番の楽しみは平日に村へ帰って子どもと遊ぶこと

「ロングネック・ウーマン」。ミャンマー東部シャン州のインレー湖に浮かぶ土産物屋にはこう書かれた看板がかかっている。はた織りを店内でする2人の女性の脇には小鉢が置かれ、観光客がひっきりなしに訪れては写真を撮り、チップを投げ入れる。このチップと繊維製品を売ったいくらかのお金。これが彼女たちにとって唯一の収入源だ。

女性たちは「パダウン族」。通称・首長族。ミャンマーのシャン州、カヤン州、タイとの国境周辺に暮らす山岳少数民族だ。

「観光客と一緒に写真を撮られるのは構わない。でも、じろじろと首ばかり見て、肝心の私たちの生活や風習に無関心な人も多い」。この店で1年半働くパダウン族のポウさん(20代前半)は店主の通訳を介し、悩みをこう打ち明ける。

ミャンマーに少数民族は130以上あるといわれるが、パダウン族はその中でも抜群の知名度を誇る。その理由は、女性のみが身につける真鍮のリングと長い首が変わっているからだ。個性的な姿を一目見ようと、土物屋には多い時で1日150人の観光客がやってくる。パダウン族はこの地域の“一大観光資源”だ。

乾季の2月はミャンマーでは観光シーズンの真最中。外国人を乗せたモーターボートがやってきては、パダウン族の女性たちに写真撮影をせがむ。その多くは欧米人で、写真を撮って即座にSNSにアップしたら、もうご満悦の様子。店内にはパダウン族の紹介パネルがあるが、それには見向きもしない。2000~3000チャット(200~300円)の撮影代を渡して去っていく。

「人間動物園」。時にはこう批判されるパダウン族(首長族)を利用した観光客の誘致。その陰でミャンマーのパダウン族を「難民」としてタイ国境へ売り渡す人身売買が横行しているとも聞く(もともとパダウン族はタイにはいなかった)。

「パダウン族は独特の文化をもつ誇りある民族。写真撮影のチップもいいけれど、昔ながらの手織りの商品を買って欲しい」。ポウさんはこう願う。

カメラやスマホをひとまず脇に置いて、彼女たちが時間をかけて織ったさまざまな製品を少しでも買い求め、その境遇に思いを馳せてみること。それが一番パダウン族のためになる観光なのかもしれない。

パダウン族の女性は4~5歳から真鍮でできたリングを首にはめはじめる。徐々に首輪の数を増やしていく。店にあった資料によるとリングは9歳で12巻、17歳で15巻、20歳以上で24巻のものを身につける。重さは4~10キログラムもある

パダウン族の女性は4~5歳から真鍮でできたリングを首にはめはじめる。徐々に首輪の数を増やしていく。店にあった資料によるとリングは9歳で12巻、17歳で15巻、20歳以上で24巻のものを身につける。重さは4~10キログラムもある

インレー湖の土産物屋はいくつもの「首長族グッズ」を売る。左はマグネット、右は木彫りの置物。パダウン族はどんな思いでこの光景を見ているのだろう

インレー湖の土産物屋はいくつもの「首長族グッズ」を売る。左はマグネット、右は木彫りの置物。パダウン族はどんな思いでこの光景を見ているのだろう