カンボジアのシェムリアップに、カンボジア人スターを誕生させようとするプロジェクトがある。高松謙一郎さん(33)率いる「カンボジア・スター・アカデミー(CSA)」だ。CSAは、日本人が講師となってカンボジア人に歌やダンスを教えるほか、音楽プロダクションとしての機能も持ち、オリジナルミュージックやプロモーションビデオを制作したり、養成中の“スター候補生”を音楽イベントに派遣したりする。
高松さんはもともと、東京で雑誌のデザインや映像の制作の仕事をしていた。CSAを立ち上げたのは2014年5月。「カンボジアに独自のポップカルチャーを発展させたい」という動機で発足させた。CSAで広報を担当する原正寛さんも「ポルポト政権下(1975~79年)で伝統や芸術は途絶えてしまった。カフェやレストランで流れている音楽はいまや、ほとんどが外国のもの」と説明する。
カンボジア人の歌手もいるにはいる。だがその多くは外国の音楽に勝手にオリジナルの歌詞をつけたパクリだという。CSAが養成中のスター候補生に「好きな芸能人はだれ」と質問すると、名前が挙がるのは外国人ばかり。カンボジア人の芸能人に限定して聞き直すと、「答えが返ってこなかった」(原さん)。
CSAには現在、10代前半~20代後半の男性6人、女性2人のスター候補生が所属している。候補生たちは週6日、ダンス、音楽、バレエのレッスンを日本人から受ける。「カンボジアの学校では体育や音楽の授業がない。このためリズム感や体力、音感などが備わっていない。教えるのがとても難しい」と原さんは言う。
困難を極めるレッスンだが、候補生らのモチベーションは高い。「観光ガイドの仕事を辞めて、スターを目指す人もいる」(原さん)。ほかにも、「ダンスが好き」「スターになって子どもに音楽を教えたい」といった理由で、日々練習に励む。
候補生になれるのは、CSAが開催するオーディションを通過した人のみだ。オーディションといっても、内容は筋力テストやランニング、忍耐力を測るテストなど。
ほとんどのカンボジア人は、音楽やダンスの基礎が備わっていないため、審査で最重要視するのは「最後まで投げ出さずにやり切れるか」という点。「プロジェクトの立ち上げ当初は、オーディションをしていなかった。するとレッスンが始まってから、難しくてついていけず、投げ出してしまう人が多かった」と原さん。
CSAはこれまで、歌手としてハル・へアンさんを、ダンスユニットとして「POXX(ポックス)」をプロデュースした。2月20日にハルヘアンさんが歌う動画「HAPPINESS」をフェイスブックページにアップしたところ、再生回数が10万回を突破。「このミュージックビデオ、とても好き!」「曲もとてもいい」「ファンになった」といったコメントが寄せられた。
候補生たちのメディアへの露出も増えている。2015年10月にはプノンペンのテレビ番組に出演し、歌やダンスを披露。2月20日にシェムリアップで開催された音楽フェスティバル「チュブメット」でもステージに上がった。