途上国ビジネスを支援するコンサル会社オリナス・パートナーズ(東京・品川)は2月29日、バングラデシュで同社が主催したソーシャルビジネスコンテストの優勝者を日本に招き、シンポジウムを都内で開いた。オリナスは2015年に、バングラデシュ人の社会起業家を発掘、支援するプログラム「LINK」を手がけており、今回のシンポジウムはその一環だ。
登壇したのは、コンテストで優勝したファーハン・ラーマン氏(29)。同氏は、首都ダッカに拠点を置く情報通信技術(ICT)・物流企業GObdの共同設立者だ。ダッカの交通渋滞のひどさは悪名高いが、渋滞を回避できるアプリをバングラデシュで初めて開発、事業化した。
アプリの名称は「ゴー・トラフィック」。交通データとリアルタイムで連動しているのが特徴で、渋滞状況を把握し、目的地までの最短ルートをユーザーに示してくれる。到着時間の予測も可能だ。日本のグーグルマップとほぼ同じ機能といえばイメージしやすい。
このアプリは、スマートフォンにダウンロードすれば、基本機能はだれでも無料で使える。渋滞アラートサービスは有料で提供している。ユーザー数はすでに月間20万人を突破した。
交通・移動データを核に、GObdはすでに、企業向けのサービスにも乗り出した。物流を効率化させるソリューションや、バス運行情報の追跡サービスなどだ。将来は、タクシーの配車サービスアプリ「Uber(ウーバー)」のようなライドシェア・タクシー事業にも参入したい考えだ。
ゴー・トラフィックを開発したきっかけについてラーマン氏は「私はダッカで生まれ育った。出かけるたびに渋滞に巻き込まれ、時間の無駄にイライラさせられてきた。世間話も渋滞トークばかり」と説明する。
同氏によると、ダッカでは1人当たり1日平均2時間半も渋滞に巻き込まれるという。国の経済損失額は年間46億ドル(約5208億円)に上るとの試算もある。
「GObdの事業を通して、みんなが渋滞に浪費する時間・お金を減らし、生産的な活動や愛する家族との時間に使えるようになれば嬉しい。自分のビジネスで、人々が幸せになれるか、ということを常に自分に問いかけている」(ラーマン氏)
ラーマン氏は最後に、日本企業に対する期待について言及。「日本の技術力がほしい。たとえば、情報の精度を上げるための渋滞情報を収集する技術や、バスを追跡・管理するシステム。日本の技術は進んでいるから、最先端のものでなくとも、自分たちにとっては大いに役立つ」と言う。
バングラデシュは社会起業家が多い国として知られる。マイクロファイナンス(担保をとらずに少額を貧困層に融資したりするスキーム)で有名なグラミン銀行も同国の企業だ。オリナス・パートナーズは2015年の設立以来、バングラデシュで住友化学の防虫蚊帳オリセットの小売り事業立ち上げや水浄化機器の市場調査のプロジェクトを手がけている。