「近所の人や知り合いにもらった古新聞をそのまま売っているよ」。こう話すのは、フィリピン・セブにあるカルボンマーケットの一角に店を構えるアントニオ・タン・ウイさん(70)。古新聞を売っているといっても、用途は紙面を読むためではなく、花や野菜を包むためだ。
アントニオさんは毎週、近所の友人などから古新聞を無料で譲り受け、それを1キログラム25ペソ(約75円)で売っている。販売先のほとんどは、マーケットの中にある花屋。1日当たり5~10人が買っていくという。
「最も人気のある古新聞は、フィリピン・デイリー・インクワイアラー。紙面のサイズが大きいから、花や野菜を包装するときの使い勝手も良く、客ウケがいい」(アントニオさん)。インクワイアラーは日本のタブロイド判をさらに縦長にしたくらいの大きさだ。フィリピン全土で最も読まれている新聞のひとつで、内容も読み応えがあって高評価だ。
セブに本社を置くサンスターという新聞がある。インクワイアラーに比べてサイズは雑誌程度。「この古新聞は小さいから全く売れないよ」とサイズの違いによる需要の格差に苦笑いを浮かべた。
古新聞の使い道は大きく分けて2つある。第一に、野菜や干し魚、花などを包む紙の役割だ。カルボンマーケットでは野菜や果物、干し魚といった食品から民芸品や洋服、家具といった日用品まで様々なものが売られている。
その中でもひと際目を引くのは、鮮やかな色をした花だ。ほとんどすべての花屋が扱うのは赤色のバラ、ピンクのデザートローズ、黄色のアラマンダの3種類。大切な人の誕生日やバレンタインデーといった行事はもちろん、教会へ行く際に購入する人が多いという。花を持ち帰る時、水分を吸収しやすく花全体を包むことができる新聞は最適のアイテムなのだ。
第二に、くつを履きやすくする役割と、かばんを大きく見せるための役割がある。女性用のパンプスなど幅の狭い履物に古新聞を詰めておくことで次に履く時に履きやすくなる。かばんは、日本のように形が崩れるのを防ぐためではなく、「中身が多く入っているように見せるために古新聞を詰め込む」とアントニオさんは説明する。
古新聞を重宝するのはマーケットだけではない。一般家庭では日常的に、生ごみを新聞紙で包んでごみ箱に捨てたり、ごみ箱の内側に新聞紙を敷くことで臭いを緩和させたりしている。「ごみを捨てる作業も楽でいい。ごみ袋の削減にもつながる」(ホテル勤務のマイケル・アニェーロさん)
セブ都市圏(セブ市と周辺の市町村で構成)は2000年から3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進し、ごみの削減に力を入れてきた。だが現実は経済成長と人口爆発でごみはなかなか減らない。カルボンマーケットでの古新聞の“手ごろなリユース”はごみの削減につながるちょっとしたヒントとなりそうだ。